相変わらずうっかりミスの個人情報流出事件が並ぶ4月下旬のセキュリティニュースで、ひときわ異彩を放っているのは、なんといってもこれだろう。
2005/04/22
・息子が通っていた中学に侵入、盗んだ個人情報を公開した父親逮捕
この父親は、子どもが通っていた中学校に夜間侵入し、生徒や教師の個人情報が入ったノートパソコンを盗み出し、その情報をもとに、ネットの掲示板で学校を中傷する書き込みを続けていた。掲示板では、一人で8人分ぐらいの人格を演じ分け、チャット状態で書きまくっていたという。夜中に長時間にわたって書くため、眠くならないように覚せい剤まで使っていたというから凄まじい。
生徒たちが口々に教師の悪口を言う掲示板
彼が書いたと言われる掲示板の当該学校名を冠したスレッドで、キャッシュに残っていた分を読んでみた。在校の女生徒や男子生徒が、口々に、校長や教頭、教師の悪口を言っている、というふうに書き分けられているのだが、そのほとんどは容疑者が一人で書いたものと推定される。
この手の掲示板は、文章は短く、舌足らずで、描写はあいまいなことが多いものだが、このスレッドでは、1つ1つの文章が比較的長く、饒舌で、人物描写や状況説明は、中学生にはうますぎるぐらい的確に書かれている。すべては、教師たちの悪口を効果的にアピールするために。そこに投下されたエネルギーと時間を思うと、呆然とする。
父親をエスカレートさせたもの
何がそこまでこの父親を駆り立てたのか。発端は、保護者会で発言中に、教師に制止されたことだというが、そんな些細なことが、ここまで憎悪をエスカレートさせるものだろうか。
もともとそういう危ない性格だったのかも知れないが、危うさをエスカレートさせたのは、間違いなく掲示板だろう。何人もの人格になりすまして書き分けているうちに、すっかり”はまって”しまったに違いない。いまどきの生徒たちが、悪の権化のような教師たちを糾弾しやっつけるという勧善懲悪ドラマ。容疑者は、脚本家のような気分で書き進めていたのではないか。
掲示板やチャットの魔力から脱するには
この春、掲示板で、いわゆる”なりすまし”を演じ、特定の人や組織を誹謗中傷したとして物議をかもした例を、あちこちで見かけた。なりすましは一度やったら止められない、たいそう魅力・魔力があるものらしい。そこまでゆかなくても、掲示板のやりとりやチャットにはまって長時間を費やし、止められなくて困っている人は少なくないだろう。
掲示板やチャットの魔力から逃れるにはどうすればいいのか。精神科医のDM氏は、物理的にネットと自分を切り離すことを勧める。パソコンに向かわない日を作る。ネットにアクセスしない日を作る。できれば数週間、自分にネット禁止令を出す。物理的強制的に掲示板やチャットから離れることで、正常な脳の働き、正常な感覚を取り戻すことができるという。仕事さえなければ、私も試してみたいのだが…。(中村)