インターネットが使いやすく面白くなっている。手間ひまかけてホームページを開設しなくてもブログで手軽に情報を発信できるし、怪しい人がいない安心できるコミュニティとして、「mixi」などのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)も盛んだ。オンライン百科事典「Wikipedia」では必要な情報を容易に検索できるうえ、自分も執筆や編集に参加できてしまう。動画を投稿・閲覧できる「You Tube」を楽しんでいる人も多いだろう。
これらのサービス群は「Web2.0」と呼ばれ、インターネットの新たな可能性を広げるものとして注目され歓迎されている。だが、この新しいサービス群のなかで、予期しなかった事件や騒動が続発している。
●ブログ炎上、誹謗中傷による自殺未遂も
ブログは個人による情報発信を容易にしたが、コメント欄を設けている場合、掲示板で指摘されていた個人への誹謗中傷、名誉毀損などの危険が、そのまま再現されてしまう。コメント欄に反論を超えた反対意見や誹謗中傷が殺到するいわゆる「ブログ炎上」は、そこかしこで起こっている。
先月18日には、山梨県の女子高校生が開設しているブログに誹謗中傷が書き込まれ、開設者が自殺未遂に至った事件が報じられた。ベースには実社会でのリアルなイジメがあったとされるが、ブログを使ったコメントが彼女を心理的に追い詰めたことは想像に難くない。個人がプロフィールも含めて公開運営しているブログでの誹謗中傷は、いわば個人の部屋に入ってきて攻撃するのに似ており、掲示板で受けるそれよりもダメージが大きいのではないだろうか。
●安全なはずのSNSで起きた、深刻な個人情報漏えい
SNSは安心して参加できる会員制のコミュニティとして、新規参加者を招待制としているところが多い。だが最近は、「招待メール」を掲示板へ貼り付けたり、オークションへの出品などが横行しており、参加者を絞るフィルター機能が低下してしまったケースも見られる。
先月は、参加者の個人情報がSNS以外の場所で晒され、当該個人の勤務先の大手企業まで巻き込む事件に発展してしまった。安全の期待を裏切ったとして、SNS運営会社の株価は急落した。だが、株価は回復することができるが、残酷なまでに個人情報をさらされた人たちの人生は回復可能なのだろうか。暗澹とした気持ちにさせられる。
・SNSの危険~米国調査で警鐘、日本でも「炎上」や個人情報暴露等相次ぐ
(06/10/11)
●「知の集大成」に紛れ込む嘘八百
ユーザーのホンネが書き込まれるクチコミサイトや、参加者が共同で執筆しているオンライン百科事典「Wikipedia」はたしかに便利で役立つサービスだ。だが、信頼性の面で大きな問題をかかえていることも事実で、実際に次のような事件が起きている。
・掲示板への虚偽の書き込みで会社社長逮捕/Wikipedia改変で楽天証券謝罪
(06/09/01)
クチコミサイトなどではネガティブ情報が必要以上に大きくとらえられ、商品の売れ行きや株の売買に影響することも考えられる。Wikipediaでは、上記のような不利益情報を改変するに留まらず、誹謗中傷にあたる情報が意図的に書き込まれる例も見受ける。
●終わらない「モグラ叩き」~投稿サイトでの著作権侵害
誰もが匿名で投稿できる動画投稿サイトが人気を集めており、米国の大手投稿サイト「You Tube」は米タイム誌の「世界の発明」に選ばれ、世界を大きく変えたと評されたほど。だが、同サイトには著作権者に無許可で使用された画像なども数多く投稿されている。サイト側が迅速な削除や投稿者の情報公開などで対応しても、他のユーザーから再投稿されるケースもあり、著作権保有者にとっては頭の痛い問題である。
・動画投稿の「YouTube」、著作権団体の協同要請で2万9,549ファイルを削除
(2006/10/24)
●便利さ面白さの陰で起こるトラブルに巻き込まれないために
新しいサービスの便利さ面白さの陰で、思いがけない罠に落ちたり、トラブルに巻き込まれる事例が続発していることがわかる。このようなトラブルにあわないために、筆者は次の2点をお勧めしたい。
(1)匿名性を確保する
双方向の世界では、発信する情報の内容にどれだけ注意を払っても、トラブル勃発を完全に防げるとは限らない。世の中にはさまざまな意見の持ち主がいるので、誤解や反発は不可避と考えたほうが安全だ。SPに守ってもらえる公人はともかく、一般庶民は匿名性を確保しておかなくては、万一の場合、逃げ場がない。ブログでもSNSでも、個人の特定に繋がるような情報を記すことには慎重でありたい。
(2)匿名性に隠れた不正を行わない
新サービスにおいても、偽情報の流布や誹謗中傷、著作権侵害が違法行為であることは変わらない。匿名性に隠れて不正を行うことは不名誉であるだけでなく、刑事罰を受ける覚悟が必要だ。著作権を侵害する画像やクチコミサイトの不適当な発言に関しては、自ら行わないことはもちろん、積極的支持も控えたい。「違法行為のほう助」となる可能性がある。参加者のモラルが、サイトの正しい運営を助けることにつながる。
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新しいサービス群は、ユーザーのネットへの積極的参加を実現したが、それは参加ユーザーのモラルがサービスの方向性に及ぼす影響も大きくなったということでもある。せっかくの便利なサービスである。安心して使えるものに、参加者全員で育てていきたい。
(執筆:現代フォーラム 山口)