人気の動画投稿サイト「YouTube」では一日のページビューが約2,000万PV、著名ソーシャルネットワークサービス(SNS)のmixiは約2億PV、携帯ゲームSNSのモバゲーでは2億2,000万PVにも上るという。目を見張る活況だが、ネットはこうした利用の広がりに伴って、犯罪の温床としての面も急速に拡大しており、取締りの強化を求める声も高まっている。いま起きているネット犯罪の実情を追ってみた。
<INDEX>
● 巨大化するコミュニティ~ 2ch、YouTube、mixi、モバゲー
● ネット空間の広がりが、定番犯罪や新たな犯罪を生む温床に
● 規制のない仮面舞踏会~ 混沌の中で悪意が横行する
● 高まるネット犯罪への不安に、官公庁や関連業者の対策は?
<本文>
● 巨大化するコミュニティ~ 2ch、YouTube、mixi、モバゲー
インターネットの規模は想像するよりはるかに大きく、日々成長を続けている。総務省の調べによると、インターネットの人口普及率は、調査を開始した1997年の9.2%(1,155万人)から2005年には66.8%(8,529万人)に拡大した。
インターネットに参加する人数が増えるにつれ、サイトを訪れ、情報を閲覧する人の数も増加している。これはとくにコミュニティに顕著だ。1日にサイトを訪れた人の"のべ人数"を表すページビュー(PV)は、ネット掲示板「2ちゃんねる」で1,600万PV、動画投稿サイト「YouTube」で約2,000万PVにものぼる。ソーシャルネットワークサービス(SNS)の筆頭であるmixiではさらに多く、1日約2億PV。すべての日本人が訪れても足りないほど多くの訪問数を記録している。
携帯電話からアクセスする、いわゆる「携帯サイト」は、接続する時間や場所を選ばない手軽さからか、さらに活気に溢れている。mixiの携帯電話向けサービス「mixiモバイル」も1日2億PVと、パソコンサイトと同じく億単位の動員を果たした。携帯ゲームSNS「モバゲー」では、開設からわずか1年足らずで2億2,000万PV、日本の人口の倍近いアクセスを集めている。
【関連情報】
・平成17年通信利用動向調査の結果[PDF](総務省)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/2006/pdf/060519_1_bt1.pdf
・YouTube、“史上最速”で利用者1000万人に到達(ネットレイティングス)
http://www.netratings.co.jp/New_news/News03222007.htm
ネット利用者の増大、ネット空間の広がりは、「犯罪の温床」というインターネットの負の側面も拡大させている。身近なところでは、メールを1通受け取るだけでも、その何倍ものフィッシングメールやスパムメールが流れ込んでくる現状に苦々しい思いを抱いている人は少なくないだろう。
ネットオークションでは相変わらず海賊版が引きもきらず、詐欺師が横行し、入金しても品物が送られてこないなどの取引トラブルが頻発している。出会い系サイトを使った児童買春で、公務員や教師、医師が逮捕されたという類のニュースも絶えない。匿名掲示板への殺人予告やペットの虐待映像掲載は、あれだけ忌むべき犯罪として騒がれたにもかかわらず、今年に入ってまた新しく逮捕に至る事件が起きてしまった。
こうしたいわば定番のネット犯罪は、急成長のコミュニティでも起きている。たとえば、匿名掲示板と違って安全だと思われていたSNSでは、その安全神話を支えていた「招待制」が崩れ、出会い系サイト代わりに利用する不心得者も少なくない。今年1月には、SNSを通じて知り合った女子大生を暴行しようする事件も発生。容疑の大学生は3月に逮捕されている。
人気が高い動画投稿サイトではチェック機能が十分に働かず、有害画像や著作権侵害の投稿が後を絶たない。また、新たな手口としては、わいせつ画像や投稿ポルノ小説に、実在の個人が特定できてしまう情報を流す、いわゆる「ネットいじめ」が発生し、はびこり始めている。
【関連ニュース】
・サイバー犯罪検挙数4割増、目立つオークション詐欺、児童の性的被害(07/02/23)
インターネットの利用拡大を告げる数字は華々しいものだが、規模拡大の過程で規制や参加者の制限などを設けなかったため、年齢や性別はもちろん悪意や犯意の有無などもわからない、正体不明な人々が匿名で入り交じる空間になってしまった。
ネットオークションに業者をかたる詐欺師が氾濫したり、2ちゃんねるに小学生が参加していたりと、気付かぬうちに想定外の出会いに遭遇する。さしずめ仮面舞踏会のようであり、「業者だから納品は確実」「大人の話題だから参加者は全員大人」などという、これまでの常識は通用しない。
ネットでは常識的な予測や判断が「油断」になってしまう上、取り締まる法律も不十分なので、悪意や犯意を持つ人間にとってはじつに都合が良い環境だ。メールを餌にしたワンクリック詐欺のように、仕掛ければ何らかの獲物が掛かる、入れ食い状態の空間といってもいい。また、何気ない書き込みが不特定多数からの攻撃対象になるブログ炎上などといった、事故としかいいようがないトラブルも多発しており、一度勃発すれば収拾する手段もない混乱が待っている。
内閣府が昨年12月に行った調査によると、調査対象者の約4割がネット犯罪への不安を抱えていた。また、セキュリティベンダーであるデジタルアーツの調査でも、「個人情報の漏えい」や「ウイルス」、「フィッシング詐欺などの犯罪」「アダルトサイトなど違法・有害サイトへの接触」など、ネットに対するさまざまな不安があげられていた。
不安を訴える声の高まりに応えるため、官公庁や通信業者、サイト管理人たちも動き始めている。警察庁は今年2月にまとめた不正アクセスに関する報告書の中で、インターネットカフェなど不特定多数の人物が利用できるコンピュータの管理者は利用者の本人確認やプログラムのイ ンストール制限など、利用者とパソコンの管理の徹底が必要であると述べ、今年4月、インターネットカフェ事業者に対し本人確認の徹底を申し入れた。
首相官邸の政策会議である知的財産戦略本部では、海賊版対策として、海賊版の販売を親告罪から非親告罪へ拡大することや、海賊版を広告することも著作権の侵害とすることなどについて検討。必要に応じて法律を整備するよう提言している。民間でも、mixiが登録時に携帯のメールアドレス登録を必須にするなど、登録を制限するための工夫を始めた。
【関連ニュース/情報】
・「ネット犯罪への不安」4割に倍増、取締まり強化や情報希望~内閣府調査(07/02/20)
・インターネット利用に関する調査結果2007[PDF](デジタルアーツ)
http://www.daj.jp/company/release/data/reference_r031501_2007.pdf
・不正アクセス行為の発生状況及びアクセス制御機能に関する技術の研究開発の状況[PDF](警察庁)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h18/pdf35.pdf
・『mixi』登録時の携帯端末認証に関するお知らせ(mixi)
http://press.mixi.co.jp/press_070327.html
* * *
インターネットに向かう際には、自分が参加しているサイトには、想像以上の大人数が参加していることや、犯罪や事故にあう可能性もあることを十分に考慮し、心の規制をもつように心がけたい。
(執筆:現代フォーラム 山口)