プロフや学校裏サイトなどに発する“ネットいじめ”の急増、子どもたちが餌食になる“ネット性犯罪”蔓延。これらネットの落とし穴から子どもを守るために、親は何ができるだろうか。
<INDEX>
● 日本の特殊事情~ カメラ付き携帯を子どもに買い与える前に● フィルタリング~ PCだけでなく携帯電話でも有害サイトのブロックを
● ネットリテラシー教育~ 新時代を生きる子どもたちの必修科目
● 地域ぐるみで~ 親たちが子どもを守る「市民インストラクター」
<本文>
● 日本の特殊事情~ カメラ付き携帯を子どもに買い与える前に
学校裏サイトでは、他者への誹謗中傷だけでなく、女子生徒が自分の裸の写真を携帯電話で撮影して掲載するなど無謀な行為が安易に行われている。子どものネットリテラシー問題に先進的に取り組んできた群馬大大学院教授の下田博次氏は、こうした現象は「世界中で日本だけといっても過言ではない」と述べる(*1)。前掲の図1のように中高生の8割近くが携帯電話を使ってネットにアクセスしているが、携帯インターネットがここまで子どもに普及しているのは日本だけで、子どもたちが無防備なまま携帯電話を持ってしまった結果、いまの惨状があるという。
携帯インターネットは、たしかに親が子どもの安全を守るハードルを高くする。パソコンなら居間において家族共有とし、使う時間を把握したり、アクセス履歴から有害サイトへの出入りをチェックすることも可能だ。だが、携帯電話となると親の監視下に置くことは難しい。子どもは、好きな場所、好きな時間に自由にネットにアクセスし、危ない情報の受発信ができてしまう。
親は子どもとの連絡手段としての携帯「電話」と見るが、子どもはメール送受信やネットができる情報端末「ケータイ」と捉えるなど、携帯電話に対する親子の認識にはギャップがある(*2)。親は子どもに携帯電話を買い与える前に、本当に必要なのか、子どもはケータイを安全に使える成長段階にあるのか、シビアに判断する必要がありそうだ。そして、そのうえで使用許可を出す場合、ネットのリテラシー教育やフィルタリング装備は不可欠となる。まず、フィルタリングについて見てみよう。
● フィルタリング~ PCだけでなく携帯電話でも有害サイトブロックを
フィルタリングとは有害サイトへのアクセスを制限するサービスのことで、政府はネットの有害情報対策の一環としてフィルタリング普及に取り組んできた(*3)。
・フィルタリング(有害サイトアクセス制限サービス)をご存知ですか?(総務省)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/d_syohi/filtering.html
・フィルタリング情報ページ (インターネット協会)
http://www.iajapan.org/rating/index.html
総務省の調査(*4)では、現在のフィルタリングの認知率は66%だが、内訳はフィルタリングについて「聞いたことがある」46%、「よく知っている」20%で、まだ浸透しているとは言い難い。最新の内閣府の調査(*5)でも、パソコンのフィルタリングについて「知っている」父親は43%、母親は23%に留まり、携帯電話のフィルタリングについては父親32%、母親17%とさらに低くなる。使用率は小・中・高校生とも1%前後だ。(図4)
<図4 携帯電話等でインターネットを利用している人のフィルタリング・サービスの認知・使用等の状況(小・中・高生、保護者)>
こうしたフィルタリングの普及率の低さを挽回しようと、業界団体は昨年に続いて今年も総務省、経済産業省と連携し、「フィルタリング普及啓発アクションプラン」を発表した(*6)。来年3月までに認知率を70%以上へ高めるのが目標だ。2006年度の警察庁発表によると、出会い系サイトへのアクセスは97%が携帯電話で行われている(*7)。携帯電話各社は無料でフィルタリングサービスを提供しているので、ぜひ利用を検討してみてはいかがだろうか。
・NTTドコモ(さらなる普及促進に向けた取り組みを強化)
http://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/page/20070301b.html
・KDDI(更なる普及促進に向けた取り組みの実施について)
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2007/0205/index.html
・ソフトバンクモバイル(さらなる普及促進の取り組みの実施について)
http://broadband.mb.softbank.jp/corporate/release/pdf/20070215_3j.pdf
・文科省、携帯電話のフィルタリング標準装備要請~KDDIは保護者意思確認を必須化(ネットセキュリティニュース:07/02/07)
● ネットリテラシー教育~ 新時代を生きる子どもたちの必修科目
親の子ども時代とは全く違う新しい情報環境を生きる子どもたちにとって、ネットリテラシー教育は不可欠だ。国語や算数と並ぶ必修科目として位置付けてほしいほどだが、今はまだ学校教育は時代の需要に追いついていない状態で、保護者が担わなければならない課題は大きい。子どものネットリテラシー教育は、大人のそれとはまた違う視点が必要になる。次のようなサイトを参考に、子どもと共に、子どもが身につけるべきネットのルールを学んではいかがだろう。
<小学生~中学生向け>
・インターネットにおけるルールとマナー こどもばん (インターネット協会)
http://www.iajapan.org/rule/rule4child/v2/index.html
・ハイテクキッズ(警視庁)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/haiteku/hikids/hikids.htm
<中高校生向け>
・あぶない!出会い系サイト[PDF](警察庁)
http://www.npa.go.jp/cyber/deai/
総務省は7月10日、小学5、6年生を対象としたネットリテラシー教育プログラムを発表した(*8)。携帯電話やインターネットなどをICT(Information and Communication Technology)メディアと呼び、携帯電話を使う割合が高まる中学生になる前の年齢の子どもたちに、ICTメディアに関するリテラシーを身につけさせることを目的としている。セミナー学習(学校の授業など)と家庭学習を組み合わせたプログラムで、メールやネットを体験するインターネット補助教材と、次の4つのテキスト教材が用意されている。テキスト教材はPDFファイルで、誰でも無料でダウンロードできる。
◎ 伸ばそうICTメディアリテラシー~つながる!わかる!伝える!これがネットだ
http://www.manabinoba.com/index.cfm/4,8751,149,html
・ ティーチャーズガイド :先生の指導用マニュアル
・ 学習テキスト :授業で児童・生徒が使用するテキスト
・ 家庭学習用ガイドブック :家庭で親子で学習するための保護者向けガイドブック
・ 学習ワークブック :児童・生徒が自宅でも学習するためのワークブック
● 地域ぐるみで~ 親たちが子どもを守る「市民インストラクター」
フィルタリングや家庭でのネットリテラシー教育には、限界もある。群馬大の下田教授は、「インターネット時代の子育ては、家庭や学校の努力だけでは不十分」とし、「地域ぐるみの啓発や危険防止活動の仕組み作りが必要」と述べる(*1)。群馬県では、昨年夏に中学生が起こした3件の有害情報発信事件(学校裏サイトから2件、プロフから1件)がきっかけとなって昨年末、県青少年こども課を事務局とした「子どもたちの携帯インターネット利用問題対策会議」が発足した。下田教授が座長を務め、県警や県教育委員会の職員、大学職員や学生らがメンバーとなって、中高生らの有害情報発信対策に取り組んでいる。
同県ではまた、子どもをネットの有害情報から守る市民インストラクターの養成が行われている。米国では地域の母親らが子どもをネットの害から守るために学習や啓発活動を行っており、「ネットマム」と呼ばれているが、その活動をモデルに構想されたプロジェクトだ。同県では母親だけでなく、会社員や住職など多彩な職業の人たちが研修を受け、市民インストラクターとして活躍している。
高度な情報化社会を生きる子どもたちは、それにふさわしい教育や守りを必要としている。子どもたちがハイテク情報機器に翻弄され、自他の命や人生を傷つけることがないように、十分な教育や見守りができる国や地域、親でありたいものだ。
(執筆:現代フォーラム「ネットセキュリティニュース」編集部)
◆特集 子どものセキュリティ対策(1)
子どもが加害者にもなる“ネットいじめ”急増(2007/05)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/05/index.html
◆特集 子どものセキュリティ対策(2)
深刻化する“ネット性犯罪”~ 餌食になる子どもたち(2007/06)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/06/index.html
【関連資料】
*1) 「子どものインターネットリテラシー」(下田博次著、インターネット白書2007)
*2) 次代を担う自立した青少年の育成に向けて(答申)(中央教育審議会)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/07020115/011.htm
*3) 「インターネット上における違法・有害情報対策」の進捗状況[PDF](IT安心会議)
http://www.it-anshin.go.jp/images/it060731.pdf
*4) 平成18年度電気通信サービスモニターに対する第2回アンケート調査[PDF](総務省)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/070522_6_bt.pdf
*5) 「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査」速報[PDF](内閣府)
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/jouhou5/g.pdf
*6) フィルタリング普及啓発アクションプラン 2007について(業界団体6団体)
http://www.iajapan.org/rating/press/20070601-press.html
*7) 「平成18年中のいわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙状況について」~「3 被害者(被害児童)の出会い系サイトへのアクセス手段」[PDF](警察庁)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h18/pdf33.pdf
*8) ICTメディアリテラシー育成プログラムの公開(総務省)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070710_4.html#bs
【図版データの出所】
図4 「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査 速報」(内閣府)[PDF]~「携帯電話等でインターネットを利用している人のフィルタリング・サービスの認知・使用等の状況(小・中・高生、保護者)」
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/jouhou5/g.pdf