携帯電話の契約数がついに1億の大台を突破し、1人1台の時代へと突入した。高校生の96%が携帯電話を使用し、女子高校生は1日平均124分、携帯でネットを利用しているという。中高校生が携帯でインターネットを利用するのが当たり前になると、「携帯サイト」で各種トラブルが多発するようになった。携帯サイトを基点とした性犯罪が後を絶たず、昨年11月にはついに女子高校生が携帯サイトで出会った男に殺害される事件まで起きてしまった。性犯罪だけでなく、自殺を招くようなネットいじめの問題も深刻化している。解決策の1つとして、子どもの携帯電話にフィルタリングを原則適用化するなど、政府や携帯電話会社も動き出した。しかし、フィルタリングにもさまざまな問題があり、万全とはいえない。
いま携帯サイトで何が起きているのか、問題点は何かを探ってみた。
<INDEX>
■ 10代に人気のモバゲーで起きた殺人事件
★ 「出会いの場」として使われているモバゲー
■ もっと知っておきたい、「ゲーム+SNS」携帯サイトの実態
★ コラム1:子どもの生活に深く入り込んでいる携帯電話
■ 「学校裏サイト」はどうなっている?
■ 「裸の写真を送る少女たち」が教える情報環境の激変
■ フィルタリングの利用促進~政府が通信キャリアに要請
■ ブロックされる「コミュニケーション」サイト
★ コラム2:ホワイトリスト方式とブラックリスト方式
■ コミュニティ運営業界からの反発
■ 「健全なサイト」の条件とは?
<本文>
昨年11月、青森県の女子高校生が30歳の男にホテルで殺害される事件が発生した。起訴状などによると、男が心中を持ちかけ、女子高校生の承諾を得て殺害したのだという。ショッキングな事件だったため、ご記憶の方も多いだろう。2人は、10代に人気の携帯ゲーム&SNSサイト「モバゲータウン」(モバゲー)で知り合っていた。
事件発生後、ネット上では、モバゲー利用者によると思われる「モバゲーは、前からヤバいと思っていた。いつか、何か起こると思っていた」という内容の書き込みがいくつも見られた。
親の世代を含め、携帯サイトをあまり利用しない人の場合、テレビCMなどの影響で、モバゲーを単なるゲームサイトだと思っていることが多いかもしれない。また、モバゲーではこれまでにたびたび、有名企業とタイアップしたャンペーンを行ってきた。昨年末には、コンビニチェーンや飲料水メーカーと組んでプレゼントキャンペーンを行っていたし、昨年3月には、東京都の薬物乱用防止キャンペーンともタイアップしていた。
これだけを見ると、楽しく遊べる健全なサイトのようで、殺人事件のきっかけになったサイトとはとても思えない。モバゲーの実態はどうなっているのだろうか。
モバゲーは、ゲームサイトであると同時に、mixiと同様のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)サイトだ。サイト内でメール(ミニメールと呼ぶ)を交換することができるほか、日記、サークル、質問広場などでユーザー同士が交流を持つことができる。
ユーザ同士が実際に会うことや、メールアドレスの交換は禁止されており、100人体制(3月以降は、300人体制となるという)で24時間、監視も行われている。しかしモバゲーは、会員数800万人、一日の平均日記投稿数が58万件、掲示板投稿数が同じく一日平均で314万件という巨大なサイトだ。すみずみまで目を行き届かせるのは無理というものだろう。これまでに、このサイトで知り合ったことをきっかけに、上述の殺人事件のほか、暴行事件や、少女が被害者となった性犯罪が複数発生している。
むろん、モバゲーだけが問題を持つサイトだということではない。モバゲーの利用者がとくに多いから目立つということであって、SNSは、携帯からであってもパソコンからであっても、出会いのきっかけを作る場としても使えるのだ。このことを、親は心に留めておく必要があるだろう。
■ もっと知っておきたい、「ゲーム+SNS」携帯サイトの実態
モバゲーについては、検索サイトで「モバゲー」に「潜入」「体験記」「ライター」などという単語を付け加えて検索すると、いくつもレポートが見つかる。お子さんがモバゲーを使っているので気になるという方は、ひとつだけでなく複数のレポートを読み、いろいろな側面からこのサイトについて知識を持つことをおすすめしたい。
また、モバゲーと同様にゲームができ、SNSの機能を持ち、子どもでも利用できる携帯サイトは他にもある。iモード公式サイトになっている「プチゲー」、EZweb公式サイトになっている「au one GREE」、一般サイト(各キャリアの公式サイトでないサイトのこと。勝手サイトともいう)の「大集合NEO」、その他にもある。モバゲーが昨年12月、ミニメール利用に年齢制限を導入するなど監視体制を強化したため、これらのサイトにユーザーが移動することも考えられる。
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★コラム1:子どもの生活に深く入り込んでいる携帯電話
携帯電話が、子どもの生活に深く入り込んでいることは、各種調査結果からもうかがえる。
携帯電話の契約数は1億の大台を突破し、1人1台の時代へと突入している(*1)。内閣府が行った昨年3月時点の調査でも、すでに高校生の96%が携帯電話を使用。女子高校生は1日平均124分、携帯でネットを利用しているという(*2)。
また、昨年11月にある携帯サイトで「携帯電話とお財布、無くして困るのはどっち?」というアンケートを行ったところ、10代の60.9%が「携帯電話のほうが困る」と答えている。同じ調査に、20代で「携帯電話のほうが困る」と答えたのは34.7%だった。(*3)
*1); 携帯電話/IP接続サービス/PHS/無線呼び出し契約数 (平成19年12月末現在)(電気通信事業者協会)
http://www.tca.or.jp/japan/database/daisu/yymm/0712matu.html
*2) 第5回情報化社会と青少年に関する意識調査について(速報)
実施:内閣府 10~29歳の男女2,468人とその保護者1,145人が回答
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/jouhou5/g.pdf
*3) ~「携帯電話」と「お財布」、無くして困るのはどっち?~
http://sega.jp/kt/hitokara/enquete_0712.shtml
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学校裏サイトとは、中高生や卒業生が学校の公式ホームページとは別に立ち上げた、情報交換のためのブログや掲示板のことだ。大半は携帯電話向けのサイトで、パスワードが設定されて部外者が閲覧できないないようになっているところもある。サイトのアドレスはこっそり仲間内で転送されて広まり、おおっぴらに宣伝されることはない。
サイトの内容が単なる情報交換でとどまっているうちはいいが、匿名性から書き込みの内容がエスカレートしがちで、教師や生徒の悪口が実名をあげて書かれることもある。ヌード画像に女子生徒の顔を合成したものが掲載されていたという事例もあった。昨年7月に神戸市の私立高校に通う男子生徒が自殺した事件でも、この生徒の下半身裸の写真が学校裏サイトに掲載されていたことが分かっている。
昨年10月に女子中高生を対象に行われたアンケート調査では、全体の1/4が自分の通う学校の裏サイトを見たことがあると回答している(*1)。また、昨年12月に高校生を対象に行われた別のアンケート調査でも、1/4が、学校裏サイトが存在すると回答した(*2)。文部科学省でも、この1月から学校裏サイトの調査をはじめており、3月末までに結果を公表し、その後、対策に乗り出す予定だ。
*1) 学校裏サイトに関する調査~高校生実態調査~
(実施:ネットエイジア 回答数:479)
http://www.value-press.com/pressrelease.php?article_id=20431&php_value_press_session=b4e7880e798e635596ab0bf5f9648b15
*2) 女子中高生に聞く 学校裏サイト・プロフ他有害サイト意識調査第二段
(実施:メディアシーク 有効回答数:957)
http://www.value-press.com/pressrelease.php?article_id=18792&php_value_press_session=b0e9cadede8ac98eaee9eb1fce7c52e6
携帯電話のサイトをきっかけに、未成年者が犯罪に巻き込まれる事件が多発している実態は、これまでに何度か取り上げてきた。なかでも、少女たちが自分の裸の写真を撮って見ず知らずの人間に送ってしまうという、これまでの常識では考えられない実態をまとめた記事「裸の写真を送る少女たち」は、Part1に続いてPart2まで掲載することになった。それほど多発しているのである。
この驚くべき事実は、簡単に写真が撮れて送信できる機能を備えた携帯電話と、撮った写真を送る見知らぬ相手~不特定多数の人間と出会えるネット環境(掲示板やブログ、SNSなど)があって初めて可能となる。携帯電話でネットにアクセスする子どもたちは、親世代が子どもだった時代とはまったく異なる情報環境におかれ、適切なルールも規制もないまま自他を傷つけている状態にある。
こうした野放しの状況を改善しようと、昨年12月、総務省は通信キャリア4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、ウィルコム)に対し、有害サイトへのアクセスを制限する「フィルタリングサービス」の利用促進を要請した。これに応え、ソフトバンクでは1月9日に、ドコモとKDDIでは1月15日に、ウィルコムでは1月18日に、フィルタリングサービスの利用を促進するための具体策を発表した。
今後数か月のうちに、親権者が「不要」と申し出ない限り、18歳未満の子どもが使う携帯電話にフィルタリングが適用されることになる。このフィルタリング、たしかに一歩前進ではあるのだが、これですべて解決するというものではなく、すでにさまざまな問題が取り沙汰されている。
現在、各キャリアが提供しているフィルタリングサービスを適用すると、「コミュニケーション」に分類されるサイトはすべてブロックされる。出会い系サイトはもちろん、掲示板やSNSにもアクセスできなくなり、モバゲーや類似サイトもブロックされる。これにより、携帯サイトを通して未成年が悪意ある大人に出会い、心身に傷を負ってしまう、というケースは減少するだろう。また学校裏サイトも、見つかり次第、有害サイトとしてブロックの対象となる。
ただし、フィルタリングは万能ではない。NTTドコモの「iモードフィルタ」と、ソフトバンクの「ウェブ利用制限」、ウィルコムの「有害サイトアクセス制限サービス」では、仕組み上、学校裏サイトすべてをブロックすることはできない。これらのフィルタリングサービスは、データベースに登録されたサイトのうち有害なものをブロックするという仕組みなので、データベースに登録されていないサイト――できたばかりのサイト、移転を繰り返すサイト、パスワードがかかっているので内容を確認できないサイトなどについては、ブロックすることが困難なのだ。(※コラム参照)
また、子どもにせがまれてフィルタリングをかけない親もいるだろう。さらにほぼ間違いなく、フィルタリングの回避策を探す子どもたちが出てくる。
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★コラム2:ホワイトリスト方式とブラックリスト方式
フィルタリングには、大きく分けて2つの種類がある。ホワイトリスト方式と、ブラックリスト方式だ。ホワイトリスト方式とは、キャリアがあらかじめチェックして安全と分かっているサイトのみ、閲覧を許す方式のこと。KDDI(au)の「EZ安心アクセスサービス」(2月よりEZ安心アクセスサービス接続先限定コースと名称を変更)と、NTTドコモの「キッズiモードフィルタ」がこれにあたる。どちらも、公式サイトのコンテンツのうち、青少年に見せてもかまわないと判断されたサイトのみ閲覧可能となる。
対するブラックリスト方式とは、専門企業が提供するデータベースにもとづいて、有害なサイトへのアクセスをブロックする方式だ。こちらは、一般サイトにもアクセスすることが可能だ。ドコモの「iモードフィルタ」とソフトバンクの「ウェブ利用制限」、ウィルコムの「有害サイトアクセス制限サービス」はこのブラックリスト方式をとっており、ネットスター社のデータベースを使用している。
なお、ソフトバンクでは対象年齢をぐっと低く設定した、ホワイトリスト方式の「Yahoo!きっず」も提供している。
<キャリア各社のフィルタリングサービス紹介ページ>
・ NTTドコモ
http://www.nttdocomo.co.jp/service/site_access/access_limit/
・ KDDI(au)
http://www.au.kddi.com/ezweb/service/anshin_access/index.html
・ ソフトバンクモバイル
http://mb.softbank.jp/mb/support/safety/web/for_kids.html
http://mb.softbank.jp/mb/special/kodomobile/restrict/site.html
・ ウィルコム
http://www.willcom-inc.com/ja/service/filtering/index.html
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一方、業界内では、コミュニケーションサイトをすべて有害とみなすことへの反発の声があがっている。携帯キャリア、メーカー、コンテンツ事業者等で構成する業界団体「モバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)」では、現状のフィルタリングには、次の2つの課題があるとしている。
1つ目は、自殺サイト・アダルトサイトと、コミュニティ(SNS等)の峻別がないこと。2つ目は、フィルタリングがカテゴリ-一律で適用され、監視・管理を行っている健全なコミュニティサイトと、そうでないサイトの区別がないということ。このことからMCFでは、健全なサイトの認定を行う第三者機関を設立することにしている。
新しく設立される機関は4月からサイトの認定を行う予定とされているが、どのようなサイトを健全と認定するのか、それがフィルタリングにどう影響してくるのか、注意深く見守る必要があるだろう。MCFでは上記の通り「監視・管理を行っているコミュニティサイト」を健全なサイトだと考えているようだ。もしこれを認定の基準とするならば、サイトに監視・管理の体制があれば、それが行き届いているかどうかは問われることなく、健全なサイトだと認定されてしまうかもしれない。
フィルタリングシステムを有効に働かせるために、考えなければならないことがある。このトピックスの読者はたぶん、「ファイアウォール」についての知識をお持ちだろう。ファイアウォールを設計する際は、まずすべての通信を遮断した状態から、安全性と利便性を天秤にかけつつ、1つ1つ通信を許可していく。まず極限まで締めた上で、精査しつつ緩めるところを緩めていくのである。要求される通信を手当たり次第に許可してしまったら、安全は確保できない。それではファイアウォールを導入する意味がないだろう。
フィルタリングも同じではないだろうか。子どもに人気のサービスだから、有意義なサービスだから、ケータイ文化を委縮させてはいけないから等々の理由で、許可を求めてくるサイトについて、安全面を精査することなく認めていくと、「子どもを有害情報から守る」という本来の目的を達成することができなくなってしまう。
「健全」の基準を「監視・管理が行われていること」に置いていいのか、という点については、あるサイトの状況が参考になるかもしれない。そのサイトは、巨大な掲示板だ。携帯からも、パソコンからも見ることができる。そのサイトでは、ボランティア300人が「必要以上の馴れ合いは慎しむ」「暴言や第三者を不快にする書き込みはしない」「一般人の誹謗中傷・私生活情報暴露は禁止」などのルールに基づいて、管理を行っている。通報があれば、ガイドラインに基づいて書き込みの削除も行う。そのサイトとは、「2ちゃんねる」である。あなたは子どもがこのサイトで遊ぶことを良しとするだろうか?
* * *
携帯サイトに限ったことではないが、人が多く集まる場所には、悪いことをたくらむ人間が寄ってくる。甘い誘惑もあるし、思いがけないアクシデントが発生することもある。
子どもに携帯電話を買い与え、ネット利用を許しているのは親だ。ならば親は、携帯電話利用によって生じるリスクを子どもに伝え、適切な行動を取るよう子どもを指導・監督しなければならないだろう。「携帯のことはよく分からないから、子どもを信用して、すべて任せています」という考え方は、現在の状況では危険過ぎる。また、コンテンツ事業者にはぜひ、自分の子どもに、妹に、弟に胸を張って見せられる、自慢できるサイトを作ってほしい。子どもが安心して利用できる楽しいサイトが増えることを、切に願う。
(執筆:現代フォーラム/北野)