「改正著作権法」が今年1月1日に施行された。施行前は、ネットで見つけた音楽や映像をダウンロードしても、一人で楽しむ分には問題なかったが、施行後の今は、その音楽や映像が「著作権者に無断で流通している」もので、「それと知りながらダウンロードした」場合、違法行為となる。違法といっても罰則規定はなく、刑事罰が課されることはないのだが、著作権者から賠償請求される可能性はある。
ここではインターネットユーザーにとって身近な音楽・映像の著作権法違反に注目し、ユーザーとして注意するべき点をまとめた。
■ 「改正著作権法」施行で、何がどう変わった?
■ 著作権違反による逮捕相次ぐ~楽曲やアニメを不特定多数に公開
○携帯電話レンタル掲示板で楽曲を違法配信、管理人の男ら逮捕
○P2Pソフト「Perfect Dark」でアニメ無断公開、埼玉の男を逮捕
○P2Pソフト「share」で映画無断公開、長野の男を逮捕
○P2Pソフトで入手したアニメを店内で上映、ネットカフェ店長逮捕
■ 携帯サイトでの「違法音楽配信」の実態
○大学生や中高生が管理者だった違法配信掲示板
○運営法人が初の摘発:広告クリック促進に音楽を利用
○法人も個人も有罪判決:大学生に60万円の罰金
☆ユーザーの注意ポイント
■ ファイル共有ソフトの危険性
○違法行為になる危険:P2Pネットワークは違法ファイルの山
○刑事罰に結び付く危険:ダウンロードだけで検挙の例も
○Winnyの著作権侵害に対する「削除要請ガイドライン」
☆ユーザーの注意ポイント
■ 便乗の「架空請求メール」に気をつけよう
今回の改正は、デジタルコンテンツ(電子化された著作物)の利用の円滑化、違法な流通の抑止、および障害者の情報利用促進を3本柱に行われており、そのためのこまごまとした改正がなされている。改正されたなかでインターネットユーザーが最も注目しているのは、違法な流通抑止の目的で改正された、いわゆる「ダウンロード違法化」部分だろう。
これまでは、著作権を侵害する音楽・映像をアップロード(公開、配信)する行為は違法として禁止されていたが、それをダウンロードする行為を違法とする規定はなかった。改正法では、違法な「音楽」「映像」をダウンロードする行為もまた違法として禁じている。ただし、違法とされるのは、「違法と知りながらダウンロードした」場合に限り、罰則規定はもうけていない。また、違法とする対象は音楽と映像(テレビ/映画など)に限られ、プログラム(ゲーム等)や画像、テキストは対象としていない。ストリーミング配信サービスも対象外で、たとえば疑似的なストリーミング配信といわれるYouTubeやニコニコ動画などでも、そこで公開されている違法ファイルを視聴したとしても違法とはされない。しかし、キャッシュに残されたデータをコピーするなどして違法ファイルを保存することは違法行為となる。
違法な流通を抑止する策としては、このダウンロード違法化のほか、海賊版DVDなどを違法な複製物と知りつつネットオークションに出品する行為を違法として禁じており、こちらには罰則規定(懲役/罰金)が設けられている。
■著作権法違反による逮捕相次ぐ~楽曲やアニメを不特定多数に公開
2010年1月末から2月初めにかけて、ネットに関連した著作権法違反容疑で逮捕が4件、相次いだ。1件は携帯掲示板での音楽配信、2件はファイル共有ソフトを使ったアニメや映画の公開で、どちらも「公衆送信権」侵害容疑での逮捕である。もう1件はファイル共有ソフトを使って集めたアニメなどをネットカフェで見せたことによる「上映権」侵害容疑による逮捕だった。いずれも改正される前でも有罪になる事例だが、改正後にダウンロードが禁止された違法な「音楽」「映像」がどのような状況で配信されているのか、これらの事例でみておこう。
○逮捕例1:携帯電話レンタル掲示板で音楽を違法配信、管理人の男ら逮捕
滋賀県警サイバー犯罪対策室と草津警察署は1月26日、携帯電話のレンタル掲示板サービスを使って運営されている「DoCoMo歌手別倉庫」の管理人で東京都墨田区の印刷会社アルバイトの男(27歳)と、同掲示板に楽曲をアップロードしていた愛知県豊橋市の建設作業員の男(40歳)を、著作権法違反(公衆送信権侵害)容疑で逮捕した。男らは、昨年7~10月にかけて計7回、大塚愛さんの「プラネタリウム」など計7曲を同掲示板で無断で公開し著作権を侵害した疑い。建設作業員の男は、うち5回について共謀した疑い。「DoCoMo歌手別倉庫」では、掲示板で一般ユーザーからリクエストを受けた楽曲を、著作権者に無断でアップロードし配信していた。警察の調べによると、同掲示板には約3800曲のファイルがアップロードされていたという。
○逮捕例2:P2Pソフト「Perfect Dark」でアニメ無断公開、埼玉の男を逮捕
京都府警ハイテク犯罪対策室と城陽署は1月27日、埼玉県上里町の自称レンタカー会社アルバイトの男(37歳)を、著作権法違反(公衆送信権侵害)容疑で逮捕した。男は1月4日、ファイル共有ソフトのPerfect Dark(パーフェクトダーク)を使い、人気アニメ「鋼の錬金術師」を無断で公開し、著作権を侵害した疑い。男は一昨年からPerfect Darkを使い始め、最近では録画したアニメなどを毎日十数本も公開していたという。
○逮捕例3:P2Pソフト「share」で映画無断公開、長野の男を逮捕
長野県警ハイテク犯罪対策室と長野南署は2月8日、長野県東筑摩郡の飲食店経営の男(38歳)を、著作権法違反(公衆送信権侵害)容疑で逮捕した。男は2009年11月頃、ファイル共有ソフトshare(シェア)を使い、人気洋画「ゴッドファーザー」を無断で公開、米国パラマウントピクチュアズ社の著作権を侵害した疑い。2009年9月、日本国際映画著作権協会(JIMCA)がネットパトロール中に当該映画ファイルを確認して県警に相談、今回の逮捕に結びついた。男は容疑を認めているという。
○逮捕例4:P2Pソフトで入手したアニメを店内で上映、ネットカフェ店長逮捕
千葉県警サイバー犯罪対策室と市川署は2月9日、千葉県市川市のインターネットカフェ「まんがランド本八幡店」の店長の男(37歳)を、著作権法違反(上映権の侵害)容疑で逮捕した。男は1月13~15日ごろまでの間、3回にわたり、著作権者に無断で、人気アニメ「機動戦士ガンダム」「メジャー MAJOR」「ドラゴンボール」を、客2人に対しパソコンを通じて上映し、著作権を侵害した疑い。男はファイル共有ソフトのShareやPerfect Darkなどを通じてアニメ等を入手し、店舗内のサーバーに保存。不特定多数の客が客用パソコンから閲覧できる状態にしていた。
JASRAC(日本音楽著作権協会)によると、携帯向け掲示板はテキストだけでなく画像や音楽データなども投稿できる仕組みが一般的になっており、市販の音楽CDなどから携帯電話用の音楽ファイルを作成し、携帯向けレンタル掲示板にアップロードして無断配信する例が後を絶たないという。2009年、そうしたレンタル掲示板の管理者が著作権法違反容疑で相次いで摘発されている。その実態をみてみよう。
○大学生や中高生が管理者だった違法配信掲示板
2009年4月、愛知情報システム(本社:愛知県名古屋市)が運営する「ワンタッチBBS」という無料レンタル掲示板サービスを利用し、「MP3変換所」という掲示板を開設していた当時20歳の大学生が逮捕された。一般ユーザーからリクエストを受けて楽曲をアップロードし、不特定多数にダウンロードさせていたもので、約3千数百曲がアップロードされていたという。
この「ワンタッチBBS」サービスを利用した違法音楽配信掲示板の管理者が、この後たて続けに検挙された。5月には「mp3の音探し」「ミュージックギャラリー」という掲示板を開設し音楽を違法配信していた自営業の男(54歳)が逮捕され、6月には同様に音楽違法配信掲示板を管理していた中高生ら5人が書類送検(送致4人、補導1人)されている。
○運営法人が初の摘発:広告クリック促進に音楽を利用
2009年7月、音楽の違法配信サイトを運営する法人が初めて摘発された。携帯電話向け音楽配信サイト「着うたキングダム」を管理・運営する法人で、著作権法違反容疑で逮捕されたのは代表者ら2人。2005年の開設以来、のべ95万4000曲がダウンロードされたという。ユーザーは会員登録し、友人を紹介したり同サイト内に掲載された広告をクリックすることで付与されるポイントを利用し楽曲をダウンロードする仕組みだった。
○法人も個人も有罪判決:大学生に60万円の罰金
法人の代表ら2人は、同年12月、岡山地裁から有罪判決を受けている。それぞれ懲役1年6か月(執行猶予3年)と罰金250万円、懲役2年(執行猶予3年)と罰金400万円である。また、運営にあたった法人3社に対しては、それぞれ罰金800万円が言い渡された。
4月、5月に逮捕された個人も有罪だった。20歳の大学生には罰金60万円、56歳の自営業者には罰金50万円が言い渡されている。こうした厳しい判決をよそに、携帯ネットでの音楽の違法配信は後を絶たず、今年1月早々にまた逮捕者が出たわけである。
------------------------------------------------------
☆ユーザーの注意ポイント
音楽ファイルを(著作権者に無断で)アップロードし、不特定多数に公開することは、刑事罰を伴う違法行為であることを再確認したい。また、改正後の今は、このようにして違法公開された音楽をそれと知りつつダウンロードすることも違法行為であることを、しっかり認識しておきたい。
逮捕例をみると、法人の場合は広告などで儲かる仕組みを作っており、人を集めてお金儲けをする目的で音楽を利用していることがわかる。しかし、個人の場合は、掲示板参加者からリクエストを受けて音楽を提供し、喜ばれ感謝されることが大きな動機となっているようだ。リクエストする人もリクエストに応え音楽を提供している人も、それが違法行為であるという認識は希薄なものだったとみえる。そうしたいわば仲間内での許しあい、慣れあい状態に堕して、善悪の判断が曇ることがないよう自戒したい。
また、怪しい場所から音楽やアニメを無料ダウンロードしないことも重要だ。上記の「着うたキングダム」のような違法サイトに誘引されないよう用心していただきたい。
------------------------------------------------------
改正著作権法施行後は、ファイル共有ソフトのユーザーには危険信号が点滅している。これまでと同じような使い方をしていると、思いがけない罰を受けることになりかねない。
○違法行為になる危険:P2Pネットワークは違法ファイルの山
事件や事故絡みで語られることが多いファイル共有ソフト(P2Pソフト)だが、それ自体が違法なわけではもちろんない。P2Pソフトは新しいビジネスの鍵として期待されるものも多く、大きな可能性をもっている。ただし、現時点で目立つのは違法データの流通に使われるP2Pソフトで、これらは使い方を間違えると、知らずに違法行為をおかしてしまう危険がある。
たとえば、ファイル共有ネットワークで自分好みの音楽やアニメを見つけ、ダウンロードしたとして、それだけで違法行為になる可能性は高い。ファイル共有ネットワークで流通している曲やアニメは著作権者に無断でアップロードされているものがほとんどだと推測されており、「違法とは知らなかった」という言い訳は通りにくい。これは2008年の調査になるが、Winny(ウィニー)ネットワーク上で流通するファイル全体の64%が著作物(映像6割、音楽2割、ソフトと書籍が1割弱)で、映像、音楽、書籍のほぼ全て、ソフトウェアは7割のファイルが著作権侵害状態という結果が示されている。
・P2Pの現状 ~Winny、Shareネットワーク状況調査報告~[PDF](「安心・安全インターネット推進協議会」P2P研究会)
http://www.scat.or.jp/stnf/contents/p2p/p2p080910_2.pdf
○刑事罰に結び付く危険:ダウンロードだけで検挙の例も
ファイル共有ソフトでは、ダウンロードすることがすなわちアップロードに等しいとみなされる場合がある。たとえばWinnyで違法ファイルを入手した場合、入手者のパソコンのキャッシュフォルダにデータが蔵置され、不特定多数の人が入手可能な状態となる。これが「違法ファイルをアップロードした」と同じとみなされる可能性があるわけだ。ダウンロードと違ってアップロードには罰則規定があるため、刑事罰を受ける可能性も出てくる。
2008年の事例だが、実際にWinnyを通じてダウンロードしただけで検挙されてしまった例がある。ゼンリンの電子住宅地図ソフトをWinnyを通じてダウンロードした兵庫県の公務員(31歳)、福岡県の会社員(35歳)が、2008年3月24日、福岡県警に書類送検されている。容疑は著作権法違反(公衆送信権侵害)で、権利者に無断で地図ソフトをWinnyを通じて不特定多数に送信できるようにした疑い。公務員は「仕事で使いたいと思い、ダウンロードした」、会社員は「デジタウンを収集したかった」と述べ、意図的に不特定多数に送信できるようにしていたわけではなかった。しかし、キャッシュフォルダに地図ソフトが蔵置されて公衆送信できるようになっていたことが、公衆送信権侵害とみなされたわけである。この事件は不起訴(無罪)となったのであるが、そのつもりがなくてもアップロードとみなされてしまうファイル共有ソフトの怖さを教えてくれる事例だ。
・Winnyによる公衆送信権侵害、2人を書類送検(ACCS)
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2007/0726.php
○Winnyの著作権侵害に対する「削除要請ガイドライン」公開
ISP事業者団体および著作権等権利者団体が昨年5月に設立した「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害対策協議会」(CCIF)は、その名称通り、ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害への対応策を検討・提言している団体だ。CCIFは2月8日、「ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害への対応に関するガイドライン」を公表した。
CCIFは、ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害行為に対し、(1)ISPからの確認(警告)メールによる注意喚起、(2)ISPによるアカウントの停止、(3)著作権者等から発信者への損害賠償請求、(4)警察による捜査および検挙 という4つの方法を組合わせて対応するのが望ましいと考えている。その展望のもと、まずは(1)の対策を実施し、(2)、(3)については、(1)の結果を受け順次検討して行くという。今回発表されたのは、この(1)を実現するためのガイドラインだ。現時点ではWinnyのみを対象としているが、今後は対象を広げることていくとしている。
・ファイル共有ソフトを悪用した著作権侵害への対応に関するガイドライン[PDF]
http://www2.accsjp.or.jp/criminal/2007/0726.php
------------------------------------------------------
☆ユーザーの注意ポイント
前掲「逮捕例4」ではファイル共有ソフトで入手したアニメがネットカフェの客寄せに使われていたが、「逮捕例2」の容疑者は金儲けのために違法行為をしたわけではない。容疑者は自ら録画したアニメなどを毎日十数本も公開して「アニメ職人」と呼ばれ、「多くの人に感謝されうれしかった」と供述しているという。携帯の個人運営の違法音楽配信サイトと同様、ユーザーのリクエストに応えてファイルを提供し、喜ばれることが大きな動機になっていたことがうかがえる。
ついホロリとさせられるのだが、こういう錯覚した奉仕行為によって、一般の人が著作権法違反容疑で逮捕される事件は、「セキュリティ通信」でもこれまで何度かお伝えしてきた。彼らは、利他のために逮捕されたとみえるだけに「なぜ(そうまでしてそんなことを)?」という疑問や悲哀を残す。できればこういう逮捕者は二度と現れないでほしいものだ。
また、感謝や賛美と引き替えに、こうした奉仕を他者に求める人たちにも警鐘を鳴らしたい。無料でアニメや映画を手に入れたいがために、他者に犯罪を期待するような言動は止めよう。前述の通り、改正後の今は、違法公開された映像をそれと知りつつダウンロードすることも違法行為となる。
ファイル共有ソフトを使うことの危険性も含め、トラブルから身を守る最大のポイントは、「違法ファイルに手を出さない」ことに尽きるだろう。作品を享受した御礼は、無料奉仕者への感謝ではなく、著作者に正規の料金を支払うことで示す。それが次なる創作につながり、著作物を守る唯一の方法だということを忘れないようにしたい。
------------------------------------------------------
最後に、改正著作権法や上記ガイドラインなどに便乗した架空請求メールが出回ることが予想されるので、くれぐれも騙されることがないよう、注意を喚起しておきたい。
著作権団体やISPを名乗って著作権侵害の警告が来た場合、対処の基本は「無視すること」。著作権の侵害などしていない場合はメールそのものを無視する。身に覚えがある方はそれを正す必要があるが、こちらもメールの求めに応じる必要は一切ない。
相手は騙しのプロなので、いかにリアクションを引き出すか手練手管を繰り出してくるが、決してのせられないように気をつけていただきたい。ありがちなのは、次のような文面だ。
「つきましては対処方法をご指導いたしますので、03-***-****の田中までご連絡ください」「<こちら>をクリックしてご確認ください」「お心当たりのある方は<こちら>、お心当たりの無い方は<こちら>をクリックして、空メールをお送りください」
いずれも、相手にアクションを起こさせるための手口だ。すべて無視して絶対に求めに応じてはいけない。「メールに返信しない」「リンクをクリックしない」「添付ファイルを開かない」「電話をかけない」を固く守ろう。
「もし本物のメールだったら」という心配する方もいらっしゃるだろうが、本物のメールは、それが本物であることを見分ける方法が、該当機関から必ずアナウンスされるはずだ。心配だという方は、直接、自身が利用しているISPや最寄りの警察、消費生活センターなどに相談することをお勧めする。架空請求の手口については、下記のコラムに詳述しているので、ぜひお読みいただきたい。
・だまされる前に知っておきたい、あんな詐欺こんな詐欺(2009/09/30)
・実録! 国内ユーザーを狙うフィッシング~ ヤフー、シティバンク、UFJカード他(2009/08/30)
(執筆:現代フォーラム/熊谷)