現実世界で起きているさまざまな犯罪がネット上でも起きている。ウソをついて金銭をだまし取る詐欺事件もその一つだ。昔からあるチケット詐欺や医師をかたる詐欺などのお手軽詐欺から、犯罪集団が仕掛ける手の込んだ詐欺まで、ネットには多くの罠があなたを待ち受けている。また、個人が他人のパスワードに手を出してしまう不正アクセスも後を絶たない。子どもはゲームに夢中のあまり、大人は恋愛感情のもつれなどマイナスの感情から一線を越えてしまうケースが多くみられる。その先には逮捕という暗転が待っている。
[1] 金銭をだまし取るあの手この手~チケット詐欺、TV出演詐欺、エア求人
■ 携帯電話掲示板で「人気アイドルグループのチケット売ります」
■ ミクシィ掲示板で「ロックバンドのコンサートチケット売ります」
■ ミクシィ掲示板で「テレビドラマ出演の営業を代行します」
■ 出会い系で心臓外科の女医をかたり、融資話で80万円詐取
■ 架空求人で履歴書入手、偽造免許証でカード作り現金詐取
★ コラム:ネット掲示板の「口座買います」に応えて逮捕
[2] 不正アクセスの誘惑~キャラ横取り、メール盗み見、嫌がらせ、なりすまし
■ オンラインゲームで強キャラ横取り、男子中学生を書類送検
■ オンラインゲームに不正アクセス、アイテム購入し換金する手口
■ 知人の会員ページに不正アクセス、メール盗み見た医師逮捕
■ 元交際相手の女性になりすまし脅しメール送信、大学生逮捕
■ SNSで女子高生になりすまし、勝手に会話や退会した会社員逮捕
★ コラム:アイテム盗みRMTで数千万円の荒稼ぎ、少年グループ摘発
[1]金銭をだまし取るあの手この手
~チケット詐欺、TV出演詐欺、エア求人
ちょっとしたウソをついて金銭をだまし取る詐欺事件は、ネットのそこここで日常的に起きている。なかでも「チケット詐欺」はネット掲示板ではありがちな犯罪で、急な事情で楽しみにしていたコンサートに行けなくなってしまった、行ける人に譲りますという手口に引っかかる人は後を絶たない。最近報道されたチケット詐欺をみてみると。
■携帯電話掲示板で「人気アイドルグループのチケット売ります」
先月、群馬県伊勢崎市のアルバイト女性(23歳)と、同居の無職男性(32歳)が詐欺の疑いで逮捕された。報道によると、2人は昨年12月、携帯電話の掲示板サイトに、急な出張で行けなくなったとして、人気アイドルグループ「嵐」のコンサートチケット4連番を譲りますと書き込んだ。これを見た都内の女性が購入を申し込み、1万4000円を振り込んだがチケットは送られてこず、2人と連絡もとれなくなったため、警視庁に相談していた。
同じ手口で同月、神戸市の無職女性(29歳)も逮捕されている。こちらは人気アイドルグループ「KAT-TUN(カトゥーン)」のコンサートチケットを売ると携帯電話の掲示板サイトに書き込み、購入を申し込んだ京都市の女性に1万5000円を振り込ませ、だまし取ったとされる。
■ミクシィの掲示板で「ロックバンドのコンサートチケット売ります」
携帯電話の掲示板ではなく、会員制のソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)でも、チケット詐欺は珍しくない。10月には SNSの「ミクシィ」で、横浜市の自称アルバイトの女性(28歳)が逮捕された。報道によると、女性は同SNSの掲示板にコンサートチケットを販売すると書き込み、購入を申し込んだ福井市の女性に1万6000円を振り込ませ、だまし取った疑い。同SNSでは8月にも、チケット詐欺容疑で新潟市の無職の女性(27歳)が逮捕されている。こちらは掲示板にロックバンドのコンサートチケット転売を書き込み、1万1600円を振り込ませたという。
詐欺はチケットばかりではない。ミクシィでは今月に入り、TVドラマ出演をダシに使う詐欺事件も報道された。
11月初旬、住所不定で無職の男性(27歳)が詐欺容疑で警視庁ハイテク犯罪対策総合センターに逮捕された。報道によると、容疑者はミクシィの掲示板に、テレビドラマ出演者募集の営業代行をする事務所を装って「営業してほしい方はご応募ください」と書き込み、応募してきた大阪府豊中市の声優の女性から登録料2万8000円を詐取。さらにドラマ出演が決まったとして、地方ロケの費用名目で50万円をだまし取ろうとしたという。女性は不審に思ってテレビ局に問い合わせ、詐欺に気づいた。容疑者は、昨年夏からこれまでに、5件・計60万円をだまし取ったと供述しているといい、調べが進められている。
詐欺事件は出会い系サイトの掲示板でも頻発している。最近では医師をかたる詐欺事件が2件、報道された。
携帯電話の出会い系サイトで大学病院の心臓外科医をかたり、知り合った男性から80万円をだまし取った詐欺容疑で先月逮捕されたのは、栃木県足利市の無職の女性(34歳)だ。報道によると、容疑者は偽りのプロフィールを見て連絡してきた都内の自営業の男性に融資話を持ちかけ、保証金として80万円をだまし取ったという。
今月初旬には、同じく出会い系サイトで医師をかたり詐欺をはたらいた容疑で、京都市の無職の男性(71歳)が逮捕されている。サイトで知り合った医療従事者の女性に「助手の医療過誤事件の裁判で必要」とウソを言い、20万円を振り込ませたという。
チケット詐欺、医師をかたって信用させ作り話で金銭を出させる詐欺などは、素人が思いつきでやってしまえる、いわばお手軽詐欺という印象を受けるが、犯罪集団が連携して仕掛ける手の込んだ詐欺もある。
先月、詐欺や有印公文書偽造などの容疑で、別件で公判中だった札幌市の無職の男性(57歳)ほか2名、計3人が逮捕・送検された。彼らは運転免許証を偽造してクレジットカードを作り現金をだまし取った疑い、また偽造免許証で銀行口座を開設した疑いがもたれている。
北海道新聞によると、この運転免許証の偽造にネットが使われていた。容疑者らはネット上で架空の会社の求人募集を行い、約100人分の履歴書を不正入手。これを偽造身分証等の作成を請け負うサイトに送り、偽造免許証を作らせていた。この偽造免許証を使ってクレジットカードを作り、キャッシングを利用して現金を引き出す手口で、これまでに1200万円以上を詐取したとみられている。求人募集はネットだけでなく紙媒体の求人誌でも行い、実際に面接までして求職者を信用させていたという。
個人情報が犯行に使われるということでは「口座売買」もある。一般の人に銀行口座を作らせてその通帳やキャッシュカードを買い取り、振り込め詐欺などの犯行に利用するもので、この「譲渡目的の口座開設」で逮捕される事件も相次いでいる。(下記コラム参照)
10月、川崎市の無職の男性(33歳)が詐欺の疑いで逮捕された。逮捕容疑は、第三者に譲渡する目的で自分名義の銀行口座を開設し、キャッシュカード1枚をだまし取ったことだった。報道によると、容疑者は2007年にネット掲示板で「口座買います」という書き込みを見て、同年12月から翌年8月にかけて10口座を開設し、譲渡した。これらの口座が振り込め詐欺に使われたことから本件が露呈した。容疑者は譲渡に際し、1口座につき2万~2万5000円を受け取っていたという。
今年6月には、横浜市寿町の簡易宿泊所で生活する5人の男性が、転売目的で銀行口座を開設し、通帳とキャッシュカードをだまし取った疑いで逮捕されている。報道によると、5人のうち1人が1件7000円で他の4人に口座開設を持ち掛けていたとみられ、背後には口座買い取りグループの存在も指摘されている。これらの口座は、振り込め詐欺の入金に使われていた。
[2] 不正アクセスの誘惑
~キャラ横取り、メール盗み見、嫌がらせ、なりすまし
不正アクセスといえば派手に報道されるサイト改ざん攻撃が思い浮かぶが、ここでは個人が日常の一線を越えて他人のパスワードに手を出してしまう不正アクセスを取り上げたい。子どもはオンラインゲームに夢中のあまり、また大人は恋愛感情のもつれなど負の感情から守るべきルールを破ってしまうケースが多くみられる。
11月、三重県熊野市の男子中学生(15歳)が不正アクセス禁止法違反などの疑いで書類送検された。報道によると、男子中学生は今年3月上旬、無料のオンラインゲームで長野県上田市在住の会社員男性(Aさん)が育てたキャラクターを利用しようと、AさんのIDやパスワードを入力して不正アクセスに成功。Aさんが育てたキャラクターを使って10回前後ゲームをしたほか、パスワードを書き換えてAさんが利用できなくした疑いがもたれている。
Aさんからゲームができなくなったと相談を受けた警察が調べを進め、男子中学生を突きとめた。中学生は、パスワードは適当に入力したらつながった、動機については強いキャラクターで遊びたかったためと供述しているという。
この事件は無料ゲームだったこともあり金銭被害は発生していないが、オンラインゲームのパスワードを破られ、金銭的被害が発生する例も少なくない。
■オンラインゲームに不正アクセス、アイテム購入し換金する手口
9月、仙台市の無職の男性(29歳)が不正アクセス禁止法違反などの疑いで書類送検された。報道によると、容疑者は今年1月、オンラインゲームで名古屋市在住の男性(Bさん)のIDやパスワードを入力して不正アクセス。BさんのIDを勝手に使い、ゲームの武器などのアイテムを購入したほか、クレジットカードの利用明細がBさんに届かないようにメールアドレスを変更した疑いがもたれている。
容疑者は数字やアルファベットを適当に組み合わせる方法でIDとパスワードを作成し、これまでに約30のIDで不正アクセスに成功。これらのIDを使って購入したアイテムをネットオークションで販売する手口で、数十万円の利益を得ていたという。容疑者が破ったパスワードは、ほとんどが数字やアルファベットの単純な羅列だったといい、「強いパスワード」を使う必要を痛感させられる。
また、オンラインゲームの不正アクセスでは、動機としてアイテムを現金化するRMT(リアル・マネー・トレード)が問題となっている。不正アクセスで盗んだアイテム類をRMTで売りさばき、多額の現金を手にした少年らが摘発されている。(文末コラム参照)
不正アクセスは遊びや金銭的動機のほか、メールの盗み見や嫌がらせ、なりすまし願望などの目的で行われることがある。それらの例を見てみよう。
■知人の会員ページに不正アクセス、メール盗み見た医師逮捕
先月、大津市の男性医師(34歳)が不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕された。報道によると、容疑者は今年6~7月、埼玉県川口市在住の知人女性(Cさん)のIDやパスワードを入力して携帯電話から会員専用ページに不正アクセス。7回にわたって侵入し、Cさんのメールを勝手に見るなどしていた疑い。2人は昨年ネット上で知り合っており、容疑者はCさんの話や名前などからIDとパスワードを割り出したとみられている。
この事件報道では動機は不詳だが、メールの盗み見ということでは、ふられた相手のメールを勝手に読んでいた東京都練馬区の女性(23歳)が今年6月に逮捕されている。容疑者は以前アルバイトをしていた弁護士事務所で出会った男性裁判官に横恋慕。交際を断られたが、「大好きでもっと知りたい」という動機で、勤務中に知った裁判官のIDとパスワードを使い、メールサーバーに不正アクセスしてメールを盗み見ていたとされる。不正アクセス禁止法違反のほか、ストーカー規制法違反容疑での立件も検討されているという。
ふられた相手への嫌がらせに不正アクセスが使われることもある。11月、兵庫県尼崎市の大学4年の男性(22歳)が不正アクセス禁止法違反および脅迫の両容疑で逮捕された。報道によると、容疑者は元交際相手の女性になりすましてヤフーのサーバーに不正アクセスし、女性を脅すメールを女性本人やその友人たちに送った疑いがもたれている。不正アクセスは計7回、中傷メールは170通に及んだという。
嫌がらせ目的ではなく、単に「なりすまし」を楽しみたい欲求で不正アクセスを犯したとみられるケースもある。
先月、山梨県笛吹市の会社員男性(22歳)が不正アクセス禁止法違反などで逮捕された。報道によると、容疑者は面識のない都内の女子高生(Dさん)のIDとパスワードを使ってSNSのミクシィに携帯電話から不正アクセス。Dさんになりすまして友人らにひわいなメッセージを送信するなどし、その後勝手に退会手続きをとった疑いがもたれている。
容疑者は同SNS内で同級生のふりをしてDさんのIDとなるメールアドレスを入手し、公開プロフィール欄の生年月日からパスワードを割り出していた。同じ手口で、これまで20件ほどパスワードを破り、不正アクセスを繰り返していたという。動機については、女の子と会話を楽しみたかったなどと供述しているという。
★コラム:アイテム盗みRMTで数千万円の荒稼ぎ、少年グループ摘発
今年9月、埼玉県草加市の無職少年(18歳)と、東京都八王子市の無職男性(24歳)が、不正アクセス禁止法違反の疑いで逮捕された。報道によると、逮捕容疑は今年2~3月、名古屋市の無職の女性ら3人のIDとパスワードを使い、オンラインゲームなどに不正アクセスした疑い。翌10月には、愛知県瀬戸市の男子高校生(16歳)、埼玉県所沢市の内装作業員(16歳)、横浜市南区の会社員(34歳)が同法違反などの疑いで書類送検された。容疑は、今年2~4月、石巻市の女性ら4人のIDとパスワードを使い、メールサービスやゲームのサーバーに不正アクセスした疑い。
摘発時期にズレがあるが、彼らは同じ犯行グループのメンバーだ。報道によれば、ゲーム上のチャットを利用して被害女性らと会話し、パスワードを推測する手掛かりを得ていたという。不正アクセスの目的は、被害女性らがゲーム上で所持するアイテムや仮想通貨だ。彼らはそれらを盗んでは専用サイトで売るRMT(リアル・マネー・トレード)を繰り返し、数千万円の現金を手にしていたとみられている。不正アクセスの強い動機となっているRMTにどう対処するかはオンラインゲーム業界の課題となっている。
(執筆:現代フォーラム/熊谷)