TwitterやGoogle+など便利なコミュニケーションツールが普及しているが、使い方を誤って、思いがけない悲劇を招くケースが後を絶たない。学生から社会人まで、わずか100文字程度のつぶやきが、人生を暗転させてしまうことがある。何をつぶやくと何が起きてしまうのか、これまでの失敗事例に学び、自衛手段を身につけよう。
<INDEX>
■ 学生の「うっかりツイート」
・ カンニングツイートで教授激怒、大学が注意喚起
・ 飲酒運転ツイートで停学処分、大学が注意喚起
・ 著名選手のプライベート発言実況中継で大波紋
・ 不道徳発言ツイートで就職内定が取り消しに
■ 働く人たちの「厳禁ツイート」
・ 来店した著名人のプライバシーを暴露
・ 新規採用の面接情報、未発表の新製品情報が漏えい?
・ 2つの公式ツイッター「47NEWS」「まんべくん」終了の理由
■ ツイート炎上はなぜ起きる?
<以下本文>
Twitterで「カンニング」や「飲酒運転」をつぶやき、青春を暗転させた学生たちがいる。無思慮な発言で就職をふいにしてしまった学生もいる。カンニングや飲酒運転、不道徳発言はもちろん許されない行為だが、プライベート情報が拡散して受ける制裁は過酷だ
昨年9月、「テスト中に、隣の人が答案見せてくれた」にもかかわらず、某教授の単位を落としてしまったと、A大教授のフルネームを挙げてTwitterで嘆いた学生がいた。偶然にもそのツイートが当該教授の目にとまり、「教師の名前を挙げて、(カンニングを)ツイートするって…」と驚き呆れられる事態となった。学生はツイートを削除し、プロフィールから個人情報も削除したが、教授はログを取り、所属や名前を確認していた。教授は「カンニングを告白したごときで騒ぐな」という学生からのツイートが複数あったことを嘆き、「本気で認識を改めたほうがいい」と怒りを綴っている。
今年7月にはカンニング2件がTwitterで「告白」され、騒ぎになった。どちらもB大の学生で、一人は12~13日午前にかけて、もう一人は22日昼頃に、それぞれカンニング自慢とも受け取れる発言をしている。これを見咎めたネットユーザーは、学生の詳細なプロフィールや顔写真などを押さえてネット各所に公開すると同時に、大学に抗議メールを送った。さらにこの後、同大の学生3人がそれぞれツイートでカンニングを漏らしたことも判明し、新たな追及を受けた。同大は「学生の皆さんへ」と題する文書をWebに掲載し、キャンパスに立て看板も出して、異例の呼びかけを行った。Twitterへの軽率な書き込みを諌める内容で、同様の事件を起こした場合は「厳重な処分」を行うとした。
今年6月、C大の学生が「これから四ツ谷を出発します。今日も飲酒運転です」とツイート。この後すぐ「車は運転していないし、お酒も摂取していません」と訂正したが、時すでに遅し。ネットの追及者たちは学生の詳細なプロフィールやアルバイト先などを探し出してネット上に公開し、大学に抗議・質問メールを送った。メール内容は「学生が違法行為である飲酒運転を堂々と公開している」「社会全体で飲酒運転撲滅に取組んでいるなか、どのような教育をしているのか」といった内容で、ほぼ定型となっているようだ。
翌7月初旬には、D大の学生が午前3時頃にアルバイト先から自転車で帰宅し、「飲酒運転は久しぶりでハラハラした」とツイート。これもネットユーザーの追及を受け、大学側に抗議メールが送られ、問合わせの電話も鳴った。大学に事情を聞かれ自転車の飲酒運転を認めた学生は、「思慮が浅く規範意識が希薄」として3か月の停学処分を受けた。
7月中旬にTwitterに書かれた「飲酒運転なう!」は、E大生のツイートだった。これが見逃されるはずはなく、例によって詳細なプロフィールや顔写真が押さえられてネット各所に公開され、大学には抗議メールが送られた。実際は「酒を飲んだ後、自転車を引いて帰った」のが真相とされるが、追及の手が緩むものではない。大学側は21日付で「Twitter等への書き込みについて」という学生に向けた文書をサイトに掲載。「Twitter等での安易な書き込みは、本人の個人情報が流出するだけでなく、友人や家族その他関係する周りの人々にも多大な迷惑を及ぼす可能性があります」とし、「各自で慎重に考え責任を持って行動」するよう注意を促した。
7月20日、女子サッカー選手と宴席を共にしたF大生が、そこでの発言を本人に無断で実況中継ツイートした。ネットユーザーは、国を挙げて祝福されている金メダリストの内輪話が外部に公開されたことを嘆きつつ、ツイートの問題発言や同席者が金メダルをかじる写真などをネットに拡散。マスメディアにも大きく取り上げられた。選手は釈明に追われ、予定されていたお祝いの席やテレビ出演を辞退。公式Twitterで、自分の軽率な行動がこの事態を招いたと謝罪した。多数の抗議メールや電話を受けた同大は、広報広聴課からお詫びのコメントを出し、学生には厳重注意するとした。無思慮なツイートは選手や関係者、大学の名誉を傷つけただけでなく、学生自身をも大きく傷つける結果となった。
上記のF大生は就職への影響が心配されているが、実際にツイートでの発言が仇になり、就職内定を取り消された学生もいる。今年2月、犯罪に肯定的なツイートをしてしまったG大生だ。たちまちネットユーザーの追及を受け、プロフィールが暴かれた。プロフィールには某企業に就職が内定していることが記載されており、追及者たちはその企業へ抗議と問合わせのメールを出した。その後、企業担当者から返信を得たという報告がネットにあがった。返信には「この学生が○○社に入社することはない」と記されており、内定が取り消されたことは明らかなようだ。
Twitterでのごく短いつぶやきで、仕事人として超えてはならない一線を超えてしまい、プライバシーをさらされたうえに職を失ってしまう人たちがいる。具体例をみてみよう。
今年1月11日、都内ホテルのレストランで働くアルバイト店員が、著名スポーツ選手とモデルが来店したことを、彼らの本名を出してツイート。さらに、2人は宿泊するらしいと書いてしまった。アルバイトとはいえホテル従業員としてあるまじき行為で、ネットユーザーたちが追及を始めた。プロフィール欄の個人情報や写真、それまでツイートしていた他のVIPの来店情報や上司の悪口なども発掘され、拡散された。抗議メールを受け取ったホテルは翌12日、「関係者の皆様及びお客様には多大なご迷惑とご心配をおかけいたしました」とするお詫び文を公式サイトに掲載した。
5月18日には、スポーツ用品メーカー大手の新入社員が、著名スポーツ選手が東京・銀座店に来店したことをツイート。さらに、連れの女性の容姿を酷評した。当該選手は同メーカーの契約選手でもあったことから批判が起き、追及が始まった。プロフィール欄の個人情報や、SNS掲載の写真までも発掘・拡散され、会社にも抗議メールが送られた。同社は19日に関係者と顧客に向けた「お詫びとご報告」を掲載。今春、同社に入社できた喜びをTwitterに記していた同社員は、その後退職したという。
8月6日、北海道内のホテルで働く従業員(契約社員)が、人気アイドルグループのメンバーの宿泊情報をツイート。メンバーの泊った部屋を片付けつつ、ファン心理の興奮を綴ったうえ、テーブルのペットボトルや空き缶、灰皿などを撮影して掲載した。こうした逸脱行為にネットは騒然となった。事態を知った従業員はその日の夕方には Twitterと参加SNSのアカウントを削除したが、消し忘れたとみられる写真などから、詳しい個人情報やホテルの所在などが特定された。ホテルには100件以上の抗議が殺到したといい、新聞やテレビニュースにまで取り上げられる騒ぎとなった。同ホテルはメディアの取材に答え、事実であれば厳正な処分をする、社員教育の見直しを行うとした。
8月9日、SNSのGoogle+で、ある会社の採用担当者が面接の実況中継を始めた。専門学校卒業見込みの30歳が新卒の面接に来たという設定で、面接相手の名前(一部伏字)、自己紹介の様子、職歴や学歴、発言の内容、受けた印象などが書き込まれていく。この実況中継がネットで問題とされ、連絡を受けた同社は緊急調査を実施した。その結果、同社の経理担当社員が採用担当者を装い、虚偽の面接実況中継を行っていたことが判明した。朝日新聞報道によると、この日は同社では実際に採用面接が実施されていたという。もし実況中継がリアルな面接を反映したものだったら、重大なプライバシー侵害事例となるところだった。同社は社内規定に基づいて同社員を処分し、その他の社員についてもSNSの利用状況を調査するとしている。
8月9日、ネットではもう1つの騒動が起きていた。大手製菓会社の未発表の新製品の画像がTwitterに掲載され、その出所元が某県に住む女子高生だというのだ。女子高生は、新製品は塩味のお菓子で、CMには人気アイドルグループのメンバーが決まったということも書いていた。なぜ知っているのという問いには、父親が会社でお菓子の担当をしているためと答えている。女子高生はこれまでも父親経由で知ったお菓子の新製品情報をツイートしてきたが、問題視されることはなかった。今回は人気アイドルの名前が出たためか急速にネットに広まり、情報漏えいとして追及された。女子高生は激しい追及に精神的苦痛を訴えつつツイートを削除し、ブログに謝罪文を掲載。最後の挨拶の言葉を残して更新を止めた。製菓会社には問合わせや取材が相次ぎ、担当者は対応に追われた。ネットユーザーは企業秘密を家族に話してしまう父親の脇の甘さを批判しつつ、今後の身の上を案じる声も出ている。
・2つの公式ツイッター「47NEWS」「まんべくん」終了の理由
7月22日、「47NEWS」編集部の公式ツイッターが閉鎖された。8月16日には、北海道長万部町の公式キャラクター「まんべくん」のツイッター閉鎖が決まった。
47NEWS(よんななニュース)は、共同通信社と同社加盟の新聞社が参加するニュースのポータルサイトだ。公式キャラクターの「てくにゃん」がニュースを紹介するという設定で、今年6月25日にツイッターを開設。編集担当の契約スタッフがてくにゃんの公式アカウントで書き込みをしていたが、ニュースに対する一方的発言を頻発したため批判が相ぎ、閉鎖に至った。
いっぽう、「まんべくん」のツイッターは昨年10月にスタート。町から業務を委託された広告代理店の男性がまんべくんとして書き込み、ゆるキャラらしからぬ毒舌発言が人気を呼んでいた。しかし、終戦記念日を控えた8月14日に書かれた私的見解に対し、全国から町役場に苦情が殺到。9万人を超えるフォロワーがついていた人気ツイッターの閉鎖が決まった。
報道によると、47NEWSの運営責任者は、てくにゃん発言を「報道機関のサイトとしては不適切」とし、長万部町の総務課主幹は個人の主義主張は控えてほしかったと述べているという。たしかに、個人のアカウントで個人的見解を述べるのは全くの自由だが、報道機関や自治体の公式アカウントでそれをやるのは不適切だ。個人がつぶやくのに適したツイッターは、その簡便さゆえに公的立場を忘れさせるものがあるのかもしれない。
学生のカンニングや飲酒運転告白、不道徳発言、有名人のプライバシー暴露や会社情報の漏えい、公式アカウントでの私的意見吐露など、さまざまなツイートの失敗事例を見てきた。どの事例でも、不用意な発言をめぐってネットが炎上し、不本意な結果を招き寄せている。なぜ、こうした炎上は起きるのだろうか。
炎上の理由はさまざまだが、どの事例にもおよそ共通して言えることがある。問題となった発言は、仲間内で語られていたら、ほとんどは聞き流されて終わっただろうということだ。極端な悪意、とんでもなく反社会的な言葉が語られているわけではない。それが、誰でも見ることができるツイッターで書かれると、たちまち反感を呼び寄せ、広がり、燃え上がる。
これは当然と言えば当然で、よく言われるように、ネットでの発言は不特定多数に拡声器で叫んでいるに等しい。仲間内だけのつもりで気軽に発した「飲酒運転なう!」という言葉は、仲間内ではなく広く世間に向かって放たれている。ツイートの場合、1~数行程度なので、誰にでもわかりやすく、拡散も早い。「飲酒運転」という一言は、一切の言い訳を許さずに、顔写真や詳しいプロフィール付きでネットを駆け巡ってしまう。学生なら大学の、勤め人なら会社の看板を背負っていることを、否応もなく思い知らされる。
自衛手段は、それを忘れないことに尽きるのではないか。具体的には、法律やルールに違反する行為や言葉、他者に知られては困る内部情報などを書かないこと。自分を特定される個人情報を書かないこと。なかには取得できた喜びのためか運転免許証を撮影して掲載してしまうようなケースもあるが、厳禁であることは言うまでもない。
Twitterは、個人の情報発信力を劇的に高め、人の輪を広げたり、新しいビジネスを開拓したり、社会革命も可能にするほどの力を秘めたものである一方、その手軽さゆえに人生を大きくつまずかせる破壊力をもつものであることも、忘れないようにしたい。
(執筆:現代フォーラム/桜井)