内閣府の最新の調査結果によると、小学生の20%、中学生の48%、高校生の96%が携帯電話を所有し、中高生の多くはそれを使ってインターネットにアクセスしている。子どものネット利用が常態化するに伴って、ネットトラブルも常態化している。東京都の子ども対象の相談窓口では、「架空請求」の相談が小中高生ともに急増し、第一位だった。コミュニティサイトでのトラブルも後を絶たない。子どもを守るための有効な対策とは?
<INDEX>
■小学生の2割が携帯電話所有、フィルタリング使用は伸び悩み
■高校生の6割がトラブル経験、フィルタリングの効果は?
■東京都の相談では小中高生とも「架空請求」が第1位
■請求金額の最高は200万円、相談できず悩む子どもたち
【相談事例:3日以内に9万9800円を支払え】
【相談事例:5分おきに現れる請求画面】
■フィルタリング活用で防げたトラブル66%
■コミュニティサイトの被害児童、連絡手段の9割は携帯電話
■保護者がフィルタリング加入しない理由は?
内閣府の調査(注1)によると、携帯電話は小学生20.3%、中学生47.8%、高校生は95.6%が所有している。携帯電話を使ったインターネットの利用率は、小学生75.2%(全体では15.2%)、中学生95.7%(全体では45.8%)、高校生99.4%(全体では95.1%)。中高校生で携帯電話を持つ子どもはほぼ100%近い割合でインターネットを使っていることになる。
パソコンの使用率は小学生81.9%、中学生85.0%、高校生87.7%で、パソコンを使ったインターネット利用率は小学生69.8%(全体では57.2%)、中学生83.3%(全体では70.8%)、高校生90.2%(全体では79.1%)だった。(図1)
図1 携帯電話・パソコンの利用率とインターネット利用率
携帯電話のフィルタリング利用状況は、小学生で7割台後半、中学生で約7割、高校生で約5割となっており、前年度の調査結果と大きな変化はない。パソコンのフィルタリング利用率は、小学生で3割弱、中学生で3割台前半、高校生で2割台後半。これも前年度の調査結果と大きな違いはない。子どものフィルタリング利用は、伸び悩みの状態にあるようだ。(図2-3)
図2 フィルタリング利用率(携帯電話)
図3 フィルタリング利用率(パソコン)
子どものインターネット利用が常態化するなか、ネットトラブルも常態化している。ネットを利用している子どもに、ネットでのトラブルや問題行動の経験をたずねたところ、小学生8.9%、中学生38.9%、高校生59.5%が、「あてはまるものがある」と回答している。最も多かったのは「チェーンメールが送られてきたことがある」(27.8%)で、以下「プロフやゲームサイトで知り合った人とやりとりしたことがある」(9.5%)、「知らない人や、お店などからメールが来たことがある」(7.4%)と続く。(図4)
図4 青少年のインターネット上のトラブルや問題行動に関連する行為の経験
こうしたトラブルはネットの利用時間とも連動している。携帯電話のインターネット利用時間が長いほどトラブル経験の割合は高い傾向があり、特に利用時間が2時間以上になると、75.6%がトラブルを経験している(図5)。また、携帯電話のフィルタリングの有無別に見ると、ほぼすべての項目でフィルタリングを非利用者が利用者より経験率が高く、全体では非利用者61.4%、利用者46.0%となっている(図6)。
図5 ネット上のトラブル経験と携帯電話のインターネット利用時間
図6 ネット上のトラブル経験と携帯電話のフィルタリングの有無
上記の内閣府の調査では、「サイトにアクセスしてお金を請求され困ったことがある」経験は、中学生1.5%、高校生5.3%と低率だ。しかし、東京都がネットトラブルに悩む子ども向けに設置している相談窓口「こたエール」の調査(注2)では、相談内容の第1位は小中高校生とも現金を執拗に請求される「架空請求」である。
中学生は203件(39%)、高校生は276件(51%)、小学生も前年度の8件から56件(23%)に大幅増加し、未就学児や学校不明などと合わせた架空請求の被害相談総数は540件にのぼる。前回調査の2009年度版(9か月間)では架空請求の相談総数は128件で、月平均約14件だった。今回調査の2010年度版は月平均45件となり、3倍以上の伸びとなる。(図7)
図7 「架空請求」に関する相談件数
架空請求の被害相談は高校生本人、中学生本人からが主だが、小学生本人からの相談も増えており、今年は小学生の架空請求相談56件中、27件は保護者等からではなく本人からのものだったという。請求金額は最高額200万円、平均額は約8万4000円、最多請求金額は9万9800円(76件)だった。
巧妙な架空請求は、社会的な経験や知識が乏しい子どもを怯えさせ、「支払わなければならない」ものと思いこませてしまう。親に相談できず、自分で抱え込んでしまうケースも少なくない。手口としては、使っていないサービスを使ったとして利用料をメールで請求してくるもの、メールでアニメや音楽、アダルトサイトなどへ誘導し、リンクをクリックさせて入会金請求の画面を表示してくるもの、誘導先サイトで悪意あるプログラムをダウンロードさせ、請求画面を繰り返し表示して消せなくしてしまうものなどがある。
・相談事例:3日以内に9万9800円を支払え
ある音楽サイトを利用しようとしたら違うURLに繋がり、知らぬ間に登録となり、9万9800円を請求されて困っている高2女子の相談例が紹介されている。3日以内に支払わなければ請求書を送付すると迫られ、親には言えないと「こたエール」に相談があった。ヘルプデスクは、支払う義務はないこと、督促メールなどにも返信してはいけないことを指導。メールの受信拒否設定やアドレス変更などの具体的な対応策も教えた。
・相談事例:5分おきに現れる請求画面
子どもが親のいない間にパソコンでアダルトサイトを見てしまい、「はい」をクリックしていった結果、「5分おきに5万円支払えという画面が出てくる」と保護者から相談があった。ヘルプデスクは、契約は無効で支払う必要はないが、解約手続き等をすると住所や電話番号等を知らせることになり、余計に被害にあうこともあるとアドバイス。パソコンの請求画面は「システムの復元方法」で消せる場合があることなどを教えた(注3)。
ヘルプデスクはこうした指導に加え、「フィルタリングを利用すれば危険なサイトへのアクセスを防ぐことができる」として、フィルタリングの使用を勧めている。
架空請求の相談は、「フィルタリング利用なし」の件数が「あり」の2倍以上となっている(図8)。すべてとは言えないが、フィルタリングの活用で防げる危険があることがわかる。
図8 「架空請求」相談者のフィルタリングの有無(件数)
フィルタリングは設定の強弱などに左右されるため、一律に「防げた」「防げなかった」との判断はできない。しかし、「こたエール」は、出会い系サイト、アダルサイトなどはフィルタリングでブロックできるものとして「防げた」とし、迷惑メール等は「防げなかった」、詳細不明なものは「不明」などと大まかに分類した結果、フィルタリングを利用していないと回答している相談者(347件)について、フィルタリングがあればトラブルを防げたと思われる内容が230件(66%)あったとした。
携帯電話にフィルタリング機能をつける重要性は、他の調査でも浮き彫りになっている。たとえば、警察庁の発表資料(注4)によると、2011年上半期に検挙したコミュニティサイト(出会い系サイト除く、いわゆる非出会い系サイト)に起因する事件は726件あり、被害児童(18歳未満)は546人にのぼった。コミュニティサイトにアクセスする手段としては携帯電話が9割を占めており(図6)、それらの携帯電話はフィルタリング未加入が9割以上だった(図10)。警察庁は、被害を防ぐ対策の重要な一つとして、フィルタリングの普及をあげている。
図9 被害児童のサイトへのアクセス手段(件数)
図10 被害児童のフィルタリング加入状況(件数)
しかし、前述のように、携帯電話もパソコンもフィルタリング利用は伸び悩みの状態にある。内閣府の調査は、保護者に携帯電話にフィルタリングを利用しない理由についてたずねているが、最多回答は「子どもを信用している」(40%)で、次に「特に必要を感じない」(33%)、「子どもにとって不便と感じた」(15.5%)、「子どもからつけないでと頼まれた」(10.4%)の順だった。
フィルタリングは万能とはいえないが、架空請求やコミュニティサイトのトラブルなどから子どもを守る重要な対策の1つであることは間違いない。携帯電話のフィルタリング機能は、携帯電話各社のサイトから無料で設定できる(下記URL参照)。また、販売窓口でも対応しているので、ぜひ活用されてはいかがだろうか。
・有害サイトアクセス制限サービス(電気通信事業者協会)
http://www.tca.or.jp/mobile/filtering.html
・違法・有害情報から子どもを守るための情報(内閣官房)
http://www.tca.or.jp/mobile/filtering.html
また、今年11月21日に、東京都はじめ、埼玉県、千葉県、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市の9都県市が共同で推奨する、子ども向け携帯電話の機種と機能が発表された。インターネット上の有害情報対策を主目的とするもので、推奨基準は「おおむね小学生程度」と「おおむね中学生以上」の2つに区分して定められている。子どもにどんな携帯電話を持たせるか悩んでいる保護者の方は、参考とされることをおすすめしたい。
・携帯電話端末等及び機能の推奨について(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/11/20lbl400.htm
・東京都推奨の携帯電話端末等及び機能(東京都青少年・治安対策本部)
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_keitai_suishoutanmatu.html
(執筆:現代フォーラム/桜井)
注1)2009年4月施行の「青少年インターネット環境整備法」の実施状況をフォローアップする基礎データを得る目的で、内閣府は2009年から年に一度、青少年のネット利用環境の調査を行っている。今年は6月9日から26日の間に、満10歳から17歳までの青少年2000人、および青少年の同居の保護者2000人を対象に実施された。調査法は調査員による個別面接。
・青少年のインターネット利用環境実態調査(内閣府/2011年10月)
http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h23/net-jittai/pdf-index.html
注2)東京都はネットや携帯電話などに関するトラブルに悩む子ども(18歳未満)のために専用総合相談窓口「東京こどもネット・ケータイヘルプデスク(愛称「こたエール」)」を設置している。2009年7月の開設時からの相談実績をまとめて公開しており、開始時から2010年3月までの21年度版は2010年6月に発表。2010年4月から2011年3月までの22年度版は今年7月に発表した。
・「東京こどもネット・ケータイヘルプデスク(こたエール)」平成22年度相談実績について(2011年7月)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/07/60l74100.htm
注3)パソコンに請求画面が繰り返し現れて消えないという現象は、コンピュータウイルスによるもの。IPAがその手口から予防策、復旧方法まで対策を詳述しているので、参照されたい。
・【注意喚起】ワンクリック請求に関する相談急増!(IPA)
http://www.ipa.go.jp/security/topics/alert20080909.html
注4)警察庁は2008年から、コミュニティサイト(出会い系サイトを除く)に起因する児童被害について統計を取り始めた。出会い系サイト起因の児童被害が減少する一方、コミュニティサイト起因の児童被害が増加傾向にあったためだ。2011年上半期では統計開始後初めて減少に転じたが、コミュニティサイト起因の被害児童数は、出会い系サイトに比べ約4倍の高水準で推移していることから調査報告を継続している。
・「コミュニティサイトに起因する児童被害の事犯に係る調査結果について(平成23年上半期)(警察庁/2011年11月)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h23/H23deai-bunseki.pdf