中高校生が犠牲になる痛ましい事件が相次いだ。10月に東京都三鷹市で高3女子が犠牲になった事件ではFacebookが、9月に三重県四日市市で中3女子が犠牲になった事件ではスマートフォン(スマホ)の出会い系アプリが、加害者との接点になったとされる。これらコミュニティサイト(コミュニケーションを目的としたサイト。mixi、GREE、Facebook、Twitter、LINEなども含む)で発生するトラブルの増大は、警察庁がまとめた今年上半期(1~6月)の犯罪被害統計にも示されている。
<INDEX>
■コミュニティサイトの検挙件数は前年同期の43%増
■高校生は半数以上が所有――急伸するスマートフォン
■「LINE」普及とトラブル増加――「ID検索機能」制限へ
■子どもたちの要求と保護者が気づきにくい問題
■個人情報を公開する危険、写真を送る危険
■スマホのフィルタリングと感染対策
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図1は、「出会い系サイト」および「コミュニティサイト」での出会いをきっかけに起きた事件の検挙件数(折れ線グラフ)と、被害を受けた18歳未満の児童の数(棒グラフ)を示している。2009年には、被害児童数、検挙件数ともコミュニティサイトが出会い系サイトを越え、その後は一貫してコミュニティサイトが出会い系サイトを大きく上回っている。今年上半期の検挙件数は859件で、前年同期の599件からすでに43.4%増加した。
図1 コミュニティサイトでの出会いをきっかけに被害を受ける児童が増加している。
出所:警察庁(注1)
2000年に統計を開始して以来、上半期としては最多を記録したものに児童ポルノの検挙件数がある(注2)。全国の警察が摘発した児童ポルノ事件は763件(被害児童数316人)で、このうち247件(159名)はコミュニティサイトで、20件(10名)は出会い系サイトで発生した。年齢層は高校生が最多で、被害児童が強要されて容疑者に画像を送る手段としては、今期初めてスマホが携帯電話を越えたという。中高生に急激に普及したスマホが被害の増加を後押ししているようだ。
図2は、今年3月に内閣府が発表したデータをグラフ化したもので、高校生の98.1%が携帯電話を持ち、その半数以上がスマホであることがわかる。今年9月発表の他の調査(注5)では、女子高校生は74.8%、男子高校生は69.9%がスマホを使用しているという報告もあり、スマホ普及が急激に進んでいることがうかがえる。
図2 青少年の携帯電話所有率、所有機種の内訳
出所:子どもたちのインターネット利用について考える研究会(注3)が、内閣府のデータ(注4)を元に作成
スマホと同様に子どもたちへの普及が急で、被害増加の後押しをしているものがある。図1をもう一度見ていただきたい。コミュニティサイトをきっかけとした事件の被害児童数は、2011年に初めて減少に転じ、2012年も引き続き減少していたが、今年上半期には前年同期と比較して増加してしまった。警察庁はその理由として、「無料通話アプリのIDを交換する掲示板に起因する犯罪被害」の増加を挙げている(注1)。無料通話アプリとしてもっとも子どもたちに利用されているのはLINEで、そのID交換によって見知らぬ者同士が出会う機会が増え、犯罪被害を増加させていたとみられる。
LINEは「友だち」登録したユーザーどうしで通話やグループトーク、メール交換などができる無料通話アプリで、2011年6月にサービス開始後、若い世代に急激に普及した。今年8月21日にはユーザー数が世界で2億3000万人を超えたとされる。
■「LINE」の普及とトラブル増加――「ID検索機能」制限へ
図3は、今年10月に民間会社が公表した中高生の調査結果で、親や友だち、異性(友だち以外)、先生を対象に、どういう手段でコミュニケーションをしているかを示す。複数回答だが、友だちとは8割、異性に対しては6割がLINEを使っており、その普及ぶりに、改めて驚かされる。
図3 中高生のコミュニケーション相手とその方法
出所:Gaba(注6)
LINEを介した事件が多発しはじめたのは2012年頃で、LINE非公認の掲示板やアプリを通じてLINEのIDを交換し、見知らぬ人どうしが出会うという使い方が広く行われるようになったことが主な原因とみられている。登録された仲間内で情報交換がなされ、その内容を外部からは把握できないため、LINEを使った違法行為やいじめなども発生し、社会問題として認識されるようにもなっている。
LINE運営側はこうした行為に注意を繰り返しており、同社の「安心安全ガイド」ページでは、「知らない人と"絶対"に会わない」ように子どもたちへ呼び掛けている。「危険な人の特徴」を挙げ、あてはまる人がいたらすぐに「ブロック」するよう推奨(注7)。また、そうなる前に、知らない人から「友だち追加」されないようにするためのLINEの設定方法を説明している(図4)。
図4 知らない人から友だち追加されないようにLINEを設定する。出所:LINE公式ブログ(注7)
左:「ID検索」で探されないように設定する。18歳未満のAndroidユーザーはすでに対応されているので設定は不要。未対応のiPhoneユーザーは左図のように「IDの検索を許可」を「オフ」にしよう。
右:この公式ページの図は「友だち自動追加」の「オフ」を丸囲みで強調しているが、ここは「オン」でもとくに問題はない。大事なのは、「友だちへの追加を許可」を「オフ」にすること。iPhoneユーザーだけでなく、Androidユーザーも「オフ」に設定しておこう。
昨年12月20日からは18歳未満のユーザーを対象に「ID検索機能」の利用制限も開始した。当初はau(KDDI)のAndroid端末のみだったが、今年9月30日からはドコモ・ソフトバンクのAndroid端末にも拡大。今後はiPhoneへの導入が予定されている。この対応により、18歳未満のユーザーが見知らぬ人と出会うことによるトラブルの減少が期待される。
LINEの「ID検索機能」利用制限については、ユーザーから反対の声があがり、LINE公式ブログには「18歳未満でも、友達増やしたりとかしたい」「ID検索できないなんて不便すぎる」といった書き込みが相次いだようだ。ある意味、無理もない意見かも知れない。「子どもたちのインターネット利用について考える研究会」が作成した『保護者のためのインターネットセーフティガイド』には、「子どもたちの要求」を5つに分類し、それに応えるインターネットのサービスの特徴を挙げている(図5)。
LINEのID検索を介した出会いは、中高校生が自然にもつ「たくさん友だちがほしい」「異性に出会いたい」「背伸びをしたい」という要求に応えるものだったと思われる。しかし、制限がない出会いの場に、子どもを無防備なまま送り出すのは、男女問わず危険だ。よく例えられるように、夜の繁華街を子どもが独り歩きするのを許すようなものと言っていい。
図5 子どもたちがもつ要求(左)と、それに応えるサービス(右)
出所:子どもたちのインターネット利用について考える研究会(注3)
同研究会は、子どものインターネット利用について、保護者が「気付きやすい問題」と「気付きにくい問題」を提示している(図6)。子どものネット依存や詐欺被害、有害コンテンツへの接触などは比較的気付きやすいが、悪意ある大人による「誘い出し」や、不用意な書き込み・ネットいじめなどは気付きにくいものだ。なかなか気付けないトラブルが発生しやすいのが、LINEも含めたコミュニティサイトであることに留意したい。
図6 保護者が「気付きやすい問題」と「気付きにくい問題」
出所:子どもたちのインターネット利用について考える研究会(注3)
子どもたちのインターネットに対する無防備さは、さまざまな事件を引き起こしている。悪ふざけをした写真をTwitterにアップし、大騒ぎになる事件も相次いだ。年度の替わり目には、教師が目を離した隙に子どもたちが成績簿を携帯で撮影し、LINEで流すという情報漏えい事件が各地で発生した。自他の裸の写真を撮って送信するという行為も、携帯電話全盛の時代から頻発するようになり、多数の悲劇を生みながら、いまだに繰り返されている。学校での「情報モラル」教育の必要性が叫ばれるゆえんだが、追いついていないのが現状だ。
子どもたちのネット・ケータイのトラブル相談に応じる東京都運営の「こたエール」には、SNSに関するトラブル相談が増えており、よく知らない相手にメールで写真を送ってしまったという不安を訴える子どもが多いという。2012年度に69件あった「交際トラブル」の相談内容をみると、もっとも多いのは「画像送信に対する不安」19件(27%)だ。「個人情報や画像を公開すると脅迫し関係を強要」されているという相談も10件(15%)寄せられている。(図7)
図7 個人情報や画像を送ってしまった後に不安になって相談する子どもが多い。
出所:東京こどもネット・ケータイヘルプデスク(注8)
今年7月にも、「生徒同士がメッセージアプリでグループを作りやり取りしていたところ、一人の女子生徒がグループ内の相手に要求されて、顔写真と顔が映っていない上半身裸の写真を送ってしまった。どう対処したら良いか」とう相談が寄せられた。ヘルプデスクは、「相手に強要して裸の写真を送らせることは児童ポルノ禁止法に抵触する行為」と釘を刺したうえで、写真の送信先を確認し、グループの一人一人に写真を処分してもらう必要があると回答。警察が関与しない限り、送った相手を特定してデータを削除させることは難しいという。学校としては、やり取りの履歴を把握して関わった生徒に個別に注意し、同じ間違いを繰り返さないように指導する必要があるとした。
子どもはあまり深く考えることなく、ネットで個人情報を公開したり、写真をメールで送ったりしてしまいがちだ。しかし、そのことが後々どういう影響を及ぼすかを考え、「プライバシー情報は公開してはいけない」「裸の写真は絶対に送ってはいけない」と、ヘルプデスクは強調する。(注8)
パソコンの高性能と携帯電話の手軽さを備えたスマホは、子どもたちにとって今後ますます手放せない必需品になっていくだろう。しかし、高性能だからこそのリスクがあり、きちんと対策しないとさまざまなトラブルに巻き込まれるおそれがある。本稿ではおもにコミュニティサイトの危険(知らない人との出会いによる被害、プライバシー情報の流出)について見てきたが、子どもがスマホ利用によって遭遇するリスクとして「ウイルス感染」「架空請求」「有害情報へのアクセスによる悪影響」等の問題も大きい。これらのリスクを回避するために、感染対策とフィルタリングの利用は不可欠だ。
○ウイルス感染対策
スマホのウイルス感染については、OS(基本ソフト=iOS、Android、WindowsPhone OS など)の更新に迅速に対応して常に最新の状態に保つこと、およびセキュリティソフトを導入して最新態に保って利用することが基本となる。フィルタリング利用によって、有害アプリ監視や有害サイトアクセス制限がなされれば、ウイルス感染対策にも貢献する。
○スマホのフィルタリング
子どものインターネット利用には、発達段階に応じた見守りが必要になる。どんな見守りが必要かは、「保護者のためのインターネットセーフティガイド」(注3)をぜひ参照していただきたい。保護者の見守りと共に、フィルタリングサービスが必要不可欠であることを理解していただけるだろう。 スマホのフィルタリングには、携帯電話のそれに加えて、2つの要件が加わる。携帯電話でのインターネット接続は、ほとんど携帯電話会社の回線(3G回線)を利用して行われており、フィルタリングは一元管理が可能だった。スマホの場合は、これに無線LAN(Wi-Fiなど)のフィルタリング、アプリのフィルタリングが必要になる(図8)。現在は、携帯電話事業者が無償提供しているフィルタリングサービスが、無線LANも有害アプリの監視もカバーし、プラスアルファの安心を提供するサービスも充実してきている。各社のフィルタリングサービスの内容を確認していただきたい。
図8 18歳未満のスマホ利用には3つのフィルタリング(① ② ③)が必要
出所:安心ネットづくり促進協議会(注9)
○各社のフィルタリングサービス
18歳未満の子どものフィルタリングサービス加入は法律で義務付けられており、携帯電話事業者から無償で提供されている。現在、次のようなサービスが案内されているが、サービス内容は常に進化しているので、最新状況については各社の更新情報を確認していただきたい。
・NTTドコモ「あんしんモード」
新規アプリのインストールの制限、インストール済みの各種アプリの起動制限が可能。指定した相手とだけ通話を許可する。spモードフィルタの制限が効かないWi-Fi経由での通信を制限できる。他社との連携で有害サイトへのアクセスを制限し、「docomo Wi-Fi」以外のWi-Fi通信を利用する際も有害サイトへのアクセスが制限できる。(注10)
・KDDI「安心アクセス for Android」
Web閲覧やアプリの制限レベルを「小学生・中学生・高校生」の3段階から設定できる。保護者がパソコンから遠隔で、個別のサイトやアプリを許可/制限することも可能。Wi-Fi通信にも対応。アプリの起動を監視し、ふさわしくないアプリや、個人情報を読み取るアプリの起動を制限する。(注11)
・ソフトバンクモバイル「スマホ安心サービス」
学齢別(小学生・中学生・高校生)にアプリケーションの起動を制限する。全ての通信経路(SoftBank 3G、SoftBank 4G、Wi-Fi等)に一括対応した、Webフィルタリング機能を利用することができる。Webサイトを個別に選択して起動制限できる。(注12)
(執筆:現代フォーラム/熊谷)
(注1)平成25年上半期の出会い系サイト等に起因する事犯の現状と対策について[PDF](警察庁、2013年9月)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h25/pdf02-1.pdf
(注2)児童虐待及び福祉犯の検挙状況(平成25年上半期)[PDF](警察庁生活安全局少年課、2013年9月)
http://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/jidougyakutai_fukushihan_kenkyoH25_1.pdf
(注3)保護者のためのインターネットセーフティガイド[PDF](子どもたちのインターネット利用について考える研究会)
http://www.child-safenet.jp/material/safety_guide04_1.pdf
(注4)平成24年度青少年のインターネット利用環境実態調査[PDF](内閣府、2013年3月)
http://www8.cao.go.jp/youth/youth-harm/chousa/h24/net-jittai/pdf/kekka_g.pdf
(注5)未成年の携帯電話・スマートフォン利用実態調査[PDF](デジタルアーツ、2013年9月)
http://www.daj.jp/company/release/data/2013/091001_reference.pdf
(注6)中高生の日常生活と勉強に関する調査[PDF](Gaba、2013年10月)
http://www.gaba.co.jp/static/20131008.pdf
(注7)LINE安心安全ガイド 学生のみなさまへ(LINE公式ブログ)
http://line.naver.jp/safety/ja/
(注8)東京こどもネット・ケータイヘルプデスク(こたエール)平成24年度相談実績[PDF]
http://www.tokyohelpdesk.jp/statistics/statistics2012.pdf
(注9)保護者のためのスマートフォン安心安全ガイド[PDF](安心ネットづくり促進協議会)
http://sp.good-net.jp/smartphone_guide_20130611_print.pdf
(注10)NTTドコモ「あんしんモード」
http://www.nttdocomo.co.jp/service/safety/anshin_mode/
(注11)KDDI「安心アクセス for Android」
http://www.au.kddi.com/mobile/service/smartphone/safety/anshin-access
(注12)ソフトバンクモバイル「スマホ安心サービス」
http://www.softbank.jp/mobile/service/sp_safety/