ここ数年来、インターネットを利用して商品を購入するインターネットショッピングが、大きな伸びを続けている。経済産業省の「平成16年度電子商取引に関する実態・市場規模調査」によると、2004年の市場規模は、前年比28%増の約5兆6千億円。ネットオークションまで含めると、約6兆4千億円に達する。
■出典
ネットショッピング:平成16年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(経済産業省)より
通信販売:通信販売売上高の推移(日本通信販売協会)より
同調査では、伸びの著しい項目のひとつに「医薬、化粧品、健康食品」(前年比44%、680億円増)をあげているが、この分野も例に漏れず、トラブルが後を断たない。私たちの身体に直接害を及ぼすトラブルも多数報告されており、中でもとりわけ「健康食品」の安易な摂取による健康被害が深刻な問題となっている。
・違法ダイエット食品「天天素」ネット販売で初の逮捕者(2005/08/22)
●ネット販売のダイエット食品や薬品で、女子大生と20代女性が死亡
今年5月、ダイエット用食品として販売されていた「天天素」から、未承認の医薬成分や法律で規制されている向精神薬が検出。インターネットで購入し服用していた都内の10代の女子大生が死亡する事例も公表され、厚生労働省などが対策に乗り出した。
逮捕されたのは、その後も販売を続けていた業者のひとりで、9月20日には、同製品を携帯電話のオークションサイトで販売していた徳島県の男女も逮捕されている。厚生労働省に報告された天天素による健康被害事例は、7月6日時点で123人、うち1人死亡とのことである。
・ネット販売のダイエット薬服用で20代の女性死亡、厚労省注意呼びかけ(2005/09/02)
今月に入って早々には、未承認の医薬品成分や向精神薬を含むダイエット目的の処方薬「ホスピタルダイエット」を服用していた神奈川県の20代の女性が、急性心不全で死亡するという事例が公表された。21日には、同製品を服用した都内の10代の女性が甲状腺機能障害などで入院していたことも明らかになり、同省は被害の拡大を警戒している。
●無承認無許可医薬品も入手できてしまうネットの個人輸入
同省の発表資料を見ると、このほかにも大量の無承認無許可医薬品や健康被害が報告されており、その多くがインターネットを通じた個人輸入(直接あるいは輸入代行業者経由)で入手されていることがわかる。
個人が自分で使用するために輸入する限りは、無承認無許可医薬品であっても輸入の規制はいたって穏やか。先述の製品のように、「麻薬及び向精神薬取締法」の対象となる向精神薬が含まれる場合には、地方厚生局長の許可が必要となるが、一般的な医薬品であれば、数量制限以外には特に規制はない(数量制限を越える場合は「薬監証明」が必要)。
論外の覚せい剤と、漢方薬などに使われていることがある「ワシントン条約」の規制対象になっている動植物に注意すれば、たいていのものがすんなり入手できてしまうのだ。裏を返せば、誰も注意したりコントロールしたりはしてくれないし、保証や責任を負ってくれる人もいない。全てが、自己責任の世界なのである。
●ボタン一発、”危険”のオマケ付きで世界から宅配される品々
国内販売では規制の厳しい「医薬品」だが、コンビニで扱うのは問題だなどとやっている間に、ボタン一発で怪しい健康食品から無承認無許可医薬品までが宅配されてしまうシステムが出来上がっていた…それが、インターネットショッピングの一面である。
ましてや「健康食品」とか「ダイエット食品」「サプリメント」などと称する類であればなおのこと。天天素の場合はまさにそれで、医薬品成分が確認されるまでは、個人輸入扱いなどではなく、一般のネットショップやオークションで堂々と取引されていた。おそらくは買う側も「薬」という認識は薄く、あるいは全く無く、安易に購入して服用したのではないだろうか。そんな限りなく怪しい商品が、世界中から次々に集結しているのも、インターネットショッピングの一面なのである。
インターネットのおかげで、居ながらにして世界中のものが手軽に入手できるようになった。がそれは同時に、背中合わせの危険も漏れなく一緒に付いて来るということを、私たちはしっかり認識しておかなければならない。(鈴木)
【参考資料】
■ネットショッピング
・平成16年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20050628001/20050628001.html
■健康食品
・厚生労働省医薬食品局の報道発表資料(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html
・厚生労働省医薬食品局のトピックス(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/index.html#iyaku.html
・健康食品ナビ(東京都)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/anzen/supply/.html
・「健康食品」の安全性・有効性情報(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)
http://hfnet.nih.go.jp/.html