「ネカマ」という言葉をご存じだろうか? ネットで自らを女性と詐称する男性の総称”ネットおかま”の略語である。ネットでは自己申告がすべてなので、性別は容易に詐称できてしまう。ネカマはネットの詐称のわかりやすい例だが、実際には遊び心で周囲を惑わせているだけで、さほど罪もないことが多い。注意していただきたいのは、ネットには遊び心ではすまない、犯罪に結びつく詐欺・詐称が氾濫しているということだ。
たとえば今夏、ネットに偽名を使って「モデル募集」の広告を出し、応募してきた17歳女子高生に買春行為を行ったうえ、新たな客を紹介し売春させたという容疑で、小学校教諭が逮捕された。客となった会社員も逮捕されている。この小学校教諭は、女子高生に売春現場のホテルで写真を撮影させ、この写真をもとに会社員を恐喝した疑いももたれている。
・ネットで募集し児童買春、小学校教諭ら逮捕(2005/9/1)
●増え続ける検挙および相談件数
自分なら絶対に騙されないと思う人もいるだろう。しかし警察庁の調べによると、今年上半期のインターネット利用犯罪の検挙数は、前年同期の約1,000件から約1,400件に増えている。なかでもインターネットを利用した詐欺の検挙数は、前年同期の2.7倍にあたる671件で、前年1年間の検挙数542件を半年間で突破した。
今年上半期のインターネットを利用した詐欺に関する相談受理件数は、前年比2倍増の約2万9000件。単純計算するとほぼ10分に1人が窓口に相談を持ちかけたことになる。今この瞬間にも、誰かがどこかで詐欺の被害に苦しみ、救いを求めているかもしれないのだ。「自分だけは騙されない」と油断してはいられない。
■出典
平成17年上半期のサイバー犯罪の検挙及び相談受理状況について(警察庁)より
・平成17年上半期のサイバー犯罪の検挙及び相談受理状況について[PDF](警察庁)
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h17/image/pdf25.pdf
●顔が見えないネット世界は、詐欺や詐称が日常茶飯事
ネットを介したコミュニケーションではお互いの顔が見えないことから、自分に都合よく性別、年齢、コミュニケーションの目的などを詐称する。
冒頭の事件では、「偽名を使った広告」が、モデル業に応募したはずの女子高生を予想外の大きな犯罪へと巻き込んだ。身分を詐称して相手への接近をはかる例もある。弁護士や医者、もしくは気さくな同年代の異性などになりすまし、チャットやメールを使った何気ないやりとりで言葉巧みに相手の信頼を得る。彼らは楽しさや安心感でちょっと緩んだ心の隙を狙って個人情報の詐取やオフラインでの接触を試み、犯罪に巻き込もうとする。
●悪質化する犯罪--出会い系サイトは性犯罪の巣窟
近年世間を騒がせている出会い系サイトは性犯罪の巣窟といっても過言ではない。親しげで楽しげな誘い文句の向こうには、売春、監禁、暴行など耳を覆いたくなる数々の犯罪が待ち受けている。
ただ、女性ばかりが被害者ではない。15歳の女子中学生と18歳の無職少女が、出会い系サイトを使って誘い出した男性に睡眠薬を仕込んだ飲み物を飲ませ、昏睡強盗を犯した事件なども発生している。10代女子といえば被害者側にまわることの多い属性だが、もはや性別や年齢、肩書きで立場の強弱を判断することさえ適わなくなっているようだ。
●悪質化する犯罪--マルチ商法、怪しい求人
詐欺といえば必ず名前があがるマルチ商法のトラブルが倍増していることを、県立神戸生活創造センターが報告している。中でも消費者金融から借金をさせるケースが急増しており、最高金額は210万円。パーティーやサークルで真の目的を偽装し、若者を誘い込むことが多い。ネットでは「一緒にもうけません?」などと掲示板に書き込んだりメールで勧誘する手口が報告されており、警察庁では注意を呼びかけている。
・ネットワーク利用の悪質商法にご注意!! (警察庁)
http://www.npa.go.jp/safetylife/kankyo3/akusyou.htm
在宅ワークを斡旋するとして登録料などの先行投資を要求する”怪しい求人”も衰えていないが、これについてはお金を要求される以外にも注意すべき点がある。ネット上の求人広告に応募すると、スパムメールや請求した覚えのない資格取得講座の案内が大量に送られてくることがある。これは応募時に書き送った個人情報が不正使用されたり転売されている疑いが濃厚だ。求人となれば履歴書を送るのがリアル社会では当たり前なので、ネットでも「求人」となると、個人情報を書き送ることへの抵抗感が弱まってしまうようだ。それにつけ入った悪質な情報収集の手口である。
●画面の向こうも現実社会
このように思わぬ目的で想定外の罠がいたるところに仕掛けられているのが、ネット上の仮想世界の現状だ。きれいで楽しい別世界のように見えるが、作り手が人間である以上、虚も実も欲も渦巻く現実世界の片鱗に過ぎない。うまい話に出会ったら、まずはキーを打つ手を止め、現実世界に置き換えて考えて欲しい。
往来で出会った人がどんなに好印象でも簡単に個人情報を教えるだろうか?
出所が曖昧な求人広告に安易に応募するだろうか?
自称された肩書きを裏づけもなく信じてよいのだろうか?
画面の向こうにいる見知らぬ人間は、目の前の文字が見せる人物像通りの人間なのか、まずは疑ってみてはどうだろう。小さな警戒心があなたを大きな被害から守ることになるかもしれない。
(執筆:現代フォーラム 山口)