●新たな“ネットいじめ”“ネット性犯罪”で加害者・被害者になる子ども急増!わが子を守るために親にできることは?
インターネットはADSLから光ファイバーへの移行が進んでさらに高速化し、Web2.0と総称される新サービスも普及し、ますます便利になっている。しかしその便利さの陰で、「学校裏サイト」「プロフ」など新しい遊び場を得た子どもたちが、自ら犯罪的なネットいじめの加害者になる事件が多発している。もちろん被害者も子どもたちだ。ネットを介した児童ポルノの蔓延や買春など、子どもが性犯罪の餌食となる事件も一向に減る気配はない。この実態を踏まえ、子どもを守るために親ができることを考える。
<INDEX>
● ネットいじめ急増の陰に「携帯インターネット」の普及
● いじめの実態~ 同級生に嫌がらせメール700回、いじめ画像流出
★ コラム:「プロフ」「学校裏サイト」とは?
● 悪用される「プロフ」~ 偽の援助交際募集やレイプ呼びかけまで
● 誹謗中傷の巣窟「学校裏サイト」~ 中傷放置の管理人が書類送検
<本文>
最新の調査では、携帯電話を使う小学生は31%、中学生は58%、高校生は96%にもなり、携帯電話を使ってネットにアクセスする子どもも、小学生27%、中学生56%、高校生96%にのぼる(*1)。携帯電話(ケータイ)がネットにつながることで、子ども世界の小さなトラブルが大きなトラブルに発展する危険性が飛躍的に高まった。
<図1:携帯電話等の使用状況(小・中・高生)>
たとえば、ケータイを使って悪口メールをばら撒いたり、「学校に来るな」「死ね」など中傷メールを送りつけたり、ネット掲示板に中傷を書き込むなどの例が多発している。また、簡単に写真を撮ってデータを送受信できるため、いじめ現場やわいせつ画像を撮影して公開するなどの無謀な行為も頻発している。
アナログの世界では仲間内のトラブルですんでも、メールや掲示板を使えば内輪の話ではすまなくなり、名誉毀損などの犯罪が成立してしまう。子どもたちは自分が手にしているケータイが、一歩間違えばそうした犯罪の凶器となりえることをほとんど自覚しないまま、この新しい情報機器に翻弄されているとみえる。
● いじめの実態~ 同級生に嫌がらせメール700回、ケータイ撮影いじめ画像流出
言葉による暴力例をあげると、今年2月、奈良県で中学3年生男子2名が同級生女子に2日間で700回以上もの嫌がらせメールを送りつけるという事件が起きた。奈良県警天理署は男子生徒を県迷惑防止条例違反(電話などによる嫌がらせ行為などの禁止)の容疑で逮捕した。
画像による例では、昨年11月、北海道の高校生が自分のホームページで公開していたいじめ画像を第三者が動画投稿サイトに投稿し、流出した。同校は昨年6月に画像の流出について匿名の通報を受けていたが、削除依頼などの措置はとらなかった。その後、10月にいじめの事実を把握し、いじめの首謀者であった女子生徒と男子生徒を停学処分とした。12月には女子生徒が自主退学、今年5月に男子生徒が転校している。
今年5月には、埼玉県の高校生が同級生に暴行まがいのいじめを行い、その一部始終を撮影した動画を「プロフ」に掲載。その動画を第三者が動画投稿サイトに投稿し、画像がインターネット上に流出した。同校では当該サイトに削除を依頼するとともに、全校集会を開いて全生徒へいじめのない学校づくりへの取り組みを呼びかけた。
同じく今年5月、栃木県の女子中学生複数名が同級生の女子中学生の体操服の上半身を捲り上げてケータイで撮影、同級生全員に送信するという事件も起きた。栃木県警は体操服を捲り上げるよう強要したとして強要容疑で捜査している。
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★コラム:いじめの温床となる「プロフ」「学校裏サイト」
「プロフ」とは「プロフィール」サービスのことで、運営者が用意した「名前(ハンドルネームも可)」「学校」「趣味」「誕生日」「メールアドレス」などの数十項目から書きたい項目を選んで自分を紹介するページを作り、ネット上で公開できる。自分のプロフを見た人にコメントを書き込んでもらう掲示板を設置できるほか、画像掲載やBGMにも対応したサービスもあり、ちょっとしたホームページのようでもある。コメント欄で言葉を交わし、メール交換やオフラインに発展するなど、友達の輪を広げるツールとして人気がある。管理がしっかりしている所なら安心だが、なかには本人確認なしで登録できてしまったり、不適切な書き込みが放置されたままという所も少なくない。その場合、本文で紹介しているような悪用が容易に行われ、いじめの温床ともなってしまう。
「学校裏サイト」は自分たちの学校をテーマにし、中高生やOB・OGが学校の公式ホームページとは別に立ち上げたブログや掲示板のこと。その大半は携帯電話向けのサイトだ。
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● 悪用される「プロフ」~ 偽の援助交際募集やレイプ呼びかけまで
ケータイを愛用する中高校生に人気が高い「プロフ」だが、登録時に本人確認を必要とせず、書き込み内容もノーチェックのところが少なくない。こうした管理されないプロフでは、いじめの対象にする相手の名前で登録し、その人物のフリをして貶める「なりすまし」や、画像掲載機能を悪用していじめたい相手の尊厳を奪おうとする例が続出してしまう。
たとえば、「趣味」などの欄で「お金くれるおじさん募集」などと嘘の情報を書き込み、ターゲットの本当の住所と電話番号を記載した「偽プロフ」が作られる。また、ターゲットの画像を掲載して、適当な項目欄に「みんなでこいつ、レイプしませんか?」などの過激な呼びかけやターゲットの個人情報を書き込む嫌がらせプロフも公開された。
プロフで勝手に電話番号と住所を公開されたため、自宅にひっきりなしに電話がかかってきたり、不審者が自宅の周辺を徘徊したりした例も報告されている。
「プロフ」サービスを利用する際には、「登録時の本人確認を行っている」「管理がしっかりしている」所を選ぶことをお勧めする。
● 誹謗中傷の巣窟「学校裏サイト」~ 中傷書き込み放置の管理人が書類送検
教師や生徒の実名をあげた陰口があふれかえっているのが「学校裏サイト」だ。入室にパスワードが必要なところもあるなど、「プロフ」に比べ関係者以外お断りといった空気があるが、この密室性が話の内容を陰湿な方向にエスカレートさせている。
「プロフ」の問題が第三者への情報漏えいであるとすると、「学校裏サイト」の問題は、書き込まれたことがクラスメートや部活の仲間にあっという間に広がり、校内でのいじめに繋がることだろう。ターゲットにされた子どもは、無責任なネット上の書き込みのせいで、実生活の平和を奪われてしまう。
歯止めのかからない密室の中傷に対して今年4月、警察が動いた。大阪の中学校の裏サイトで女子生徒を名指しで「ブス」「死ね」とした書き込みを放置したとして、大阪府警が名誉毀損幇助の容疑で管理人の男を書類送検した。同時に、中傷書き込みをしたとして別の中学校の女子生徒を、名誉毀損の非行事実で児童相談所に通告した。女生徒は小学校の時に被害女子生徒と同じ塾に通っていた。管理人は不起訴となり、名誉毀損幇助の罪を問うことはできなかったが、世間に投げかけた「危険信号」の意味は大きい。 * * *
“ネットいじめ”により転校を余儀なくされた被害者、逮捕された加害者など、多くの子どもたちがさまざまな形で、明るいはずだった未来に影を背負いこんでしまった。“ネットいじめ”はその時が過ぎれば消えてしまう遊びではなく、それぞれの将来をも変えてしまう犯罪であると教える必要を強く感じる。
(執筆:現代フォーラム 山口)
◆特集 子どものセキュリティ対策(2)
深刻化する“ネット性犯罪”~ 餌食になる子どもたち(2007/06)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/06/index.html
◆特集 子どものセキュリティ対策(3)
わが子を守るために親にできることは? (2007/07)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/07/index.html
【関連資料】
*1) 「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査 速報」(内閣府)[PDF]
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/jouhou5/g.pdf
【図版データの出所】
図1 「第5回情報化社会と青少年に関する意識調査 速報」(内閣府)[PDF]~ 「携帯電話等の使用状況(小・中・高生)」
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/jouhou5/g.pdf