前章では、ネットいじめの加害者ともなる子どもの姿を追ったが、子どもたちが被害者となる事件数も衰えるどころか増える一方なのだ。警察庁のまとめによると、2006年に検挙されたネットワーク利用犯罪は3,593件だが、このうち978件で児童(18歳未満の者)が性的被害を受けている。これは昨年666件の約1.5倍にあたり、過去最多の数値だ(*1)。
<INDEX>
● 検挙事例が示す2つのキーワード~「児童ポルノ」「出会い系サイト」
● 児童ポルノ~ ネットに氾濫する虐待画像
★ コラム:児童ポルノの海外事情
● 児童ポルノ~ なぜ少女たちは「裸の写真を送る」のか?
● 出会い系サイト~ 利用した高校女子の約半数が「実際に会う」
● 出会い系サイト~ 検挙数は2割増、被害者の83%は児童
<本文>
● 検挙事例が示す2つのキーワード~「児童ポルノ」「出会い系サイト」
警察庁の資料(*1)から検挙事例をいくつか挙げてみよう。
昨年7月、岡山県で「児童買春・児童ポルノ法違反、強要」で検挙された男(30歳)は、女子中学生を装い、携帯電話のコミュニティサイトを利用して、児童25名から裸体の画像を携帯電話で送信させた。また、この画像をばら撒くとメールで脅し、さらに画像を送信させて児童ポルノを製造した。
昨年9月、富山県で「児童買春・児童ポルノ法違反」で検挙された男(29歳)は、携帯電話の出会い系サイトで知り合った女子児童を、現金10万円を渡すとしてホテルに連れ込み、性交。この際に撮影したビデオを使って、児童ポルノを製造した。
昨年10月、神奈川県で「児童福祉法違反、児童買春・児童ポルノ法違反、売春防止法違反」で検挙された男(42歳)らは、携帯電話の出会い系サイトで知り合った児童に男性を性交の相手方として紹介し、ホテルにおいて性交させた。
これらの事例からは、「児童ポルノ」「出会い系サイト」という2つのキーワードが浮かび上がってくる。これらの実態を見てみよう。
ブロードバンドが普及し、カメラ付き携帯電話を持つ人が増えた現在、気軽に、そして簡単に画像を送受信できるようになった。便利さを実感している人も多いことだろう。だがそれに伴い、児童ポルノや、児童を性的に虐待する画像も、数多くインターネット上に出回るようになってしまった。
「ネットセキュリティニュース」の次の2件の記事からは、会社員や小学教師など一般社会人が実行者となって、ネット上に児童ポルノのネットワークが作られている実態を垣間見ることができる。
・児童ポルノHPのURLを紹介した会社員と掲載サイト運営者が逮捕(07/05/11)
・児童遺体写真収集の小学教諭逮捕(07/02/09)
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★コラム:児童ポルノの海外事情
児童ポルノの氾濫は、日本だけの問題ではない。今年2月には、オーストリアで児童ポルノ流通ルートが摘発され、子どもがレイプされたり、残酷な性的虐待を受けている画像が、日本を含む77か国に流通していたことが明らかになった。たった1日で、何千人もがこれらの画像を購入したこともわかっている。
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また、インターネットの監視活動を行っているイギリスの財団「Internet Watch Foundation(IWF)」は4月、児童の性的虐待に関するサイトが増加していることと、深刻な性的虐待の画像が前年比4倍にも増加したことを報告している。
・深刻さ増す児童虐待サイト~英監視団体が報告、日本の状況は?(07/04/20)
「どうしてそんなことを?」と思わずにはいられない、以下のような事例がある。それも1件や2件ではない。「裸の写真を送る少女たち」と題された次の2件の記事で、少女たちになにが起きたのか、確認していただきたい。
・裸の写真を送る少女たち~ きっかけは携帯サイト(06/11/13)
・「裸の写真を送る少女たち」Part2~ 続発する同種のネット犯罪(07/06/29)
だまされて、脅迫されて、あるいは面白半分に、自らの裸の写真を送ってしまう少女たちが、こんなにいる。少女たちの多くは「写真をばらまかれたくなかったら言うことを聞け」と脅迫され、さらに過激な写真を送るよう強要されたり、現金を脅し取られたり、わいせつな行為をされるなどの被害にあっている。
● 出会い系サイト~ 利用した高校女子の約半数が「実際に会う」
6月下旬から7月初めまでのごく短い期間に、警官、小児外科医、大学院教授、高専講師らが、出会い系サイトを利用して児童買春行為を行ったとして続けざまに逮捕された。6歳から12歳までの67.9%、13歳から19歳までの93.0%がインターネットを利用している現在(*2)、出会い系サイトにアクセスしている子どもはどれぐらいいるのだろうか。
少し古いデータになるが、2005年11月に警察庁が行ったアンケート調査によると、出会い系サイトを利用したことがあると答えた中高生は2.6%だった。女子による利用が多く、中学女子が1.9%、高校女子が4.2%となっている。さらに、利用経験があるとした女子高校生のうち45.8%が、出会い系サイトで知り合った相手と実際に会ったことがあるとしている。(図2)
警察庁発表によると(*3)、2006年の出会い系サイトに関係した事件の検挙件数は1,915件で、前年と比べ334件(21.1%)増加している。被害者1,387人のうち、18歳未満の児童が1,153人(83.1%)で、このうち女子児童が1,149人(99.7%)を占める。被害児童のなかには小学生4人、中学生356人、高校生496人が含まれ、このうち中学生2人、高校生2人の4人は男子である。(図3)
<図3 出会い系サイト関連事件・被害者数の推移>
被害内容を見ると、女子児童に対する強姦が21件、強制わいせつが11件、略取誘拐・傷害が各2件、脅迫・恐喝が各1件となっている。男子児童に対しては買春1件、青少年保護育成条例違反3件の被害が発生している。
なお、被害児童の96.6%(1,114人)が出会い系サイトへのアクセスに携帯電話を利用している。出会い系サイト関連事件の被害は、ケータイから始まると言っていい。
このほか、出会い系サイトと薬物の関係も見逃せない。覚せい剤関連の書き込みがずらりと並ぶサイトがいくつも存在しており、知り合った相手から覚せい剤を打たれた、飲まされたという事例もある。
(執筆:現代フォーラム/小西)
◆特集 子どものセキュリティ対策(3)
わが子を守るために親にできることは? (2007/07)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/07/index.html
◆特集 子どものセキュリティ対策(1)
子どもが加害者にもなる“ネットいじめ”急増(2007/05)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2007/05/index.html
【関連資料】
*1) 「平成18年のサイバー犯罪の検挙及び相談状況について」(警察庁)[PDF]
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h18/pdf34.pdf
*2) 「平成19年情報通信に関する現状報告」(総務省)[PDF]p41図3-13
http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/pdf/070703_2_bt.pdf
*3) 「平成18年中のいわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙状況について」(警察庁)[PDF]
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h18/pdf33.pdf
【図版データの出所】
図2 「平成18年版警察白書」(警察庁)~「第1章(2)少年に与える悪影響」図1-5
http://www.npa.go.jp/hakusyo/h18/honbun/hakusho/h18/figindex.html
図3 「平成18年中のいわゆる出会い系サイトに関係した事件の検挙状況について」(警察庁)[PDF]~「1 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数」
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h18/pdf33.pdf