ネット上では、しばしば「炎上」「祭り」といった騒動が起こる。ブログやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の日記に、収拾がつかないほどたくさんのコメントがつく「炎上」。掲示板に数多くのスレッドが立って異様に盛り上がる「祭り」。当事者に大きなダメージを与え、家族や、通学先、勤務先までも巻き込むこれらの騒動について、過去の例を通して考えてみたい。
<INDEX>
● 「祭り」のプロセス:鳥取砂丘落書き事件
★ コラム:「祭り」にどう対処する?
● 自爆系その1~不正行為を自ら告白する大学生、医学生
● 自爆系その2~高校生がいじめの様子を動画で公開、大騒ぎに
● 自爆系その3~常識はずれの大人たちは、こんな行為で自爆
● ウイルス感染系~個人情報が丸ごとさらされる恐怖
● 「炎上」「祭り」に巻き込まれないために
<本文>
今年9月、国立公園の鳥取砂丘に、名古屋大学などの学生で構成するアウトドアサークルのメンバーが巨大な落書きをしていたことが分かり、「祭り」が勃発した。この祭りがどのように始まり、燃え上がり、収束したのか、そのプロセスを追ってみよう。
9月9日(日)朝、新聞一紙が、鳥取砂丘で落書きが見つかったという写真付きの記事を紙面とサイトに掲載。この時点では、落書きの実行者は不明だった。午前11時過ぎ、この件について巨大掲示板「2ちゃんねる」に複数のスレッドが立つ。11時14分、スレッドのひとつに、現場の写真付きで「砂丘に名前を刻んできた」と書かれたブログのURLが書き込まれた。ブログの内容から、実行者が大学のアウトドアサークルのメンバーだと判明、「祭り」が始まった。11時28分、サークルのホームページや、mixiコミュニティのURLが書き込まれる。11時29分、ブログやホームページが削除され始めたとの報告で、当事者たちが騒ぎに気づいたことが祭り参加者たちに明らかとなった。
以上はすべて新聞掲載当日の午前中に起きたことだ。火が燃え広がるのがいかに早かったかがわかる。以降、数日間にわたり、複数のスレッドで、ブログやホームページから拾われたメンバーの個人情報や写真がさらされ続け、判明した情報を集めた「まとめサイト」も登場した。これらの騒動にメディアも着目した。10日には情報サイトやニュースサイトが、また12日には新聞やテレビも、この落書き事件をとりあげた。サークル関係者たちの動きとしては、11日にサークルが謝罪文を公開。13日には実行者判明のきっかけとなったブログのオーナーが「今回の行為をブログ上へ掲載したことへの謝罪」と題する文を公開した。
9月26日に、落書きの調査を行っていた環境省が「学生たちが反省の手紙を送ってきたため、注意文書を送ることで調査を終える」と発表したこともあって、現在、騒動は収拾している。しかし、これまでにさらされてしまった彼らのプライベートな情報は、閲覧可能な状態で今もネット上に残っている。
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★コラム:「祭り」にどう対処する?
祭りの過程でブログやホームページの存在が明らかになると、「証拠保全」の目的でページのコピーが作成され、公開される。そのため、ブログやサイトを削除しても意味がないばかりか、かえって「証拠を隠滅して逃亡するのか」と、騒ぎを大きくしてしまう。このケースでも、まさにその通りの展開となってしまった。また、「砂だし、問題ない」「誰にも迷惑かけてない」「騒ぎすぎ」などの書き込みも反感を買って、祭りを長引かせた。(ただし、これらを書いた人物がサークル関係者かどうかは定かでない)
このケースでは、祭りが始まって間もない9日、「早く関係各所に謝罪しなさい。ブログに謝罪文を掲載し、関係各所に連絡をとって謝罪すると宣言しなさい」とサークルのメンバーに呼びかける書き込みがいくつもあった。学生たちがこの通りの行動をとっていれば、騒ぎはこれほど大きくならずにすんだかもしれない。
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これまでに起きた炎上や祭りを振り返ると、上の「鳥取砂丘落書き事件」も含め、自らが騒動の原因を作り出して「自爆」しているケースがほとんどだ。当事者が大学生の場合、「やんちゃ自慢」の書き込みがきっかけとなって、炎上や祭りに至った例が多い。なかには、未成年の飲酒や喫煙、万引き、ひき逃げなど、明らかに法にふれる行為をしていたケースもある。
・大学生がmixiの日記でキセル未遂告白、軽率な書き込みが大騒動へ
今年9月、男子大学生がキセル行為を企て、それを咎めた駅員へ暴言を吐いたことと併せてmixiの日記で告白。日記から他の悪質な行為が次々と発掘されて祭り状態に。当該学生はmixiを退会し書き込みは消えたものの「祭り」は終わらず、学生が通う大学や就職内定先の企業に電話やメールが殺到。近所にはビラがまかれるなどの異常事態へと発展してしまった。
・宮崎大医学部生6名が「ウサギ狩り」ブログで残酷写真を公開、停学処分に
2005年、宮崎大学医学部の学生6名がドライブ中にはねたというウサギを解剖し、その写真を「うさぎ狩り部」というブログで公開。内容が批判を浴び、停学処分を受けた。
● 自爆系その2~高校生がいじめの様子を動画で公開、大騒ぎに
高校生がいじめの様子を携帯電話で撮影し、ネットに公開して騒ぎとなった。撮影、公開していたのは、いじめの加害者本人だ。
・北海道立高校、生徒のいじめ被害画像流出~匿名掲示板の抗議行動で表面化
2006年、札幌市の公立高校1年生が、同級生の男子をからかったり嫌がらせをしている様子を携帯電話で撮影して公開。学校は動画の存在を知りながら放置していた。ネットで抗議行動が呼びかけられ、同校と教育委員会に抗議が殺到。いじめの中心となっていた女子生徒と男子生徒は停学処分となった。
・いじめの様子を携帯サイトに投稿、ネット上で広まる~さいたま市の私立高校
今年6月、さいたま市の私立高校の生徒が同級生に殴る蹴るの暴行をし、その様子を携帯電話で撮影して動画投稿サイトに投稿。第三者がこの動画をコピーして複数の動画投稿サイトに投稿したため、いじめの様子が広く公開される事態となった。生徒は「軽い気持ちで」投稿したという。学校はこの騒動に対し、HPに公表文を出している。
学生ばかりではない。いい大人も、店に訪れた客の悪口をブログやSNSの日記に書き込んだり、以下のような呆れた行為をしでかし、騒動となっている。
・東京メトロ駅員、ICカード端末の個人情報をブログに掲載~報道で二次流出拡大
今年8月、東京メトロ駅員が、ICカード処理端末に知人女性の登録情報を表示させ、名前や電話番号が読み取れる状態の画像をブログに掲載し、騒ぎとなった。
・[残虐画像問題]:掲示板でフェレット虐待映像、厚木市の会社員の男を逮捕
今年3月、会社員の男がフェレットを虐待している映像をネットで公開。映像を見た人多数が警察に連絡し、4月、男は逮捕された。
・[当て逃げ動画ネット公開]祭りの後~ 車所有者が容疑を認め書類送検
昨年10月に当て逃げをした男が今年8月、書類送検された。被害者が自身のブログで、事故の様子を車載カメラで捕らえた映像を公開したことから、6月に祭りとなっていた。勤務先は「弊社元従業員の当て逃げ事件に関して」という一文を会社HPに掲載している。
「自爆系」と正反対に、問題となるような行為を自分では何もしていないのに、騒ぎに巻き込まれてしまったという事例もある。交際している男性の所有するパソコンがウイルスに感染したため、女性の個人情報やプライベート画像がネット上に流出し、祭り状態となってしまったケースが何件かあるのだ。Winny(ウィニー)やShare(シェア、シャレ)といったファイル共有ソフトを介して、恋人しか目にすることがないと信じていたプライベートな画像と、女性個人を特定できる情報がセットになって流出し、多数の目にさらされてしまうという、痛ましいとしか言いようのないケースだ。
以上、「炎上」「祭り」の事例を見てきた。「炎上」も「祭り」も、時には本人を停学や懲戒免職などの事態に追い込み、彼らの通う学校や勤務先にまで大きな影響を及ぼしてしまう。社会的にも、精神的にも痛手の大きいこうした騒動に巻き込まれないためには、どうしたらいいのか。
「自爆系」の騒ぎを引き起こさないための対策は、まず「バカな行動をするな・書き込むな」、これに尽きるだろう。騒ぎの元となるような情報を自分自身で撒き散らすのはやめよう。当然ながら不正行為をしてはいけないし、それを自ら公開するのは愚かしい。「ウイルス感染系」の騒動を防ぐためには、あなた自身と、あなたのプライベートな情報を知っていたり持っていたりする人が「ファイル共有ソフトを使わない」ことが、最大の予防になるだろう。
また、自分自身の情報を必要以上に公開するのはやめよう。SNSの日記やブログでは、コメントしてくれる人が友人や知人だったり、同じ趣味を持った仲間だったりするためか、友達とおしゃべりしている感覚でいろいろな情報を書き込んでしまいがちだ。写真や、年齢、勤務先、学校名、趣味、家族構成、よく行くお店……。一つ一つはささいな情報であっても、検索サイトを駆使して丹念に関連付けていくと、意味を持ちはじめ、あなたの姿を浮かび上がらせるツールとなる。 * * *
あなたの書いたブログを、日記を、多くの人が見ている。それによって手ひどいダメージを受けることもあれば、逆に交流の輪が広がって新しい仲間と知り合い、生活が豊かになることもある。情報を上手にコントロールして、ネットの世界を楽しみたいものだ。
(執筆:現代フォーラム/北野)