昨年来、ネット時代に合わせた「著作権法」の見直しが進められており、10月には文化庁の文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会と法制問題小委員会が相次いで中間報告をまとめ、公表した。この論議には、ネットユーザーにも大きく影響する事柄がいくつか含まれている。いま現在、ネットで無許可で行える著作物の利用にはどういうものがあるか、また今後それがどう変わる可能性があるかをまとめてみた。
<INDEX>
● 「著作権」とは?
● ネット上で無許可で行える著作物の利用
● 著作権にまつわるこれまでの動向
● 著作権にまつわる今後の動向
<本文>
● 「著作権」とは?
思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものを「著作物」といい、この著作物を創作した人には「著作権」が、演奏やCD化、放送などの方法で著作物を伝達した人には「著作隣接権」が自動的に与えられる。作者や伝達者にどのような権利が生じ保護されるのかを定めたのが「著作権法」で、私たちが家で私的に利用する場合などの一部例外を除くと、著作物の利用にまつわるほとんどのことは、権利者に無断で行うことができないと思っておいて間違いないほど、広範囲におよぶ強い権利が権利者に与えられている。
上記のように、私たちが権利者に無許可で行える著作物の利用方法は、かなり限定されている。特に私的な利用の範囲を超えてしまうネット上においては、一般の人間が行えることというのは数えるほどしかない。逆に許可さえ得られれば何でも可能なのだが、ではいったい、どんなことまでなら、無許可で行えるのだろうか。私たちがネット上で無許可で行える著作物の利用方法を列挙しておこう。
なお、対象はあくまで著作権法により保護される著作物であり、権利は作者の死後50年が経過(翌年1月1日から)すると権利は消滅し、誰でも自由に利用できるようになる。また、事実の伝達にすぎない雑報や時事の報道(いつ、どこで、誰が、何をした、という事実のみで構成されたもの)は著作物に該当しないし、法令や裁判所の判決などの著作物には権利は発生しない。
・私的なダウンロードや印刷
ネット上に掲載されている文章や写真などをディスクに保存したり、プリンタで印刷する行為は、権利者が持つ複製権の及ぶところだが、家庭内など限られた範囲内で、使用する本人が仕事以外の目的に使う場合には、私的な利用のための複製として除外されており、許諾なしで行える。家庭内のネットワーク(LAN)を使い、自分の部屋でダウンロードしたデータをリビングで閲覧するという行為も無許可で行えるが、インターネット上のホームページなどに無断でアップロードしてしまうと、実際にアクセスがあるかないかにかかわらず「送信可能化権」の侵害になる。この私的複製に関しては、後述する論議の対象のひとつになっており、今後、一部制限される可能性がある。
・著作物の引用
公表されている著作物は、引用する必然性があり必要最小限の範囲内であれば、報道、批評、研究などの目的で引用することができる。この場合は、引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確で、なおかつ引用部分をカギ括弧でくくるなどした上で出所を明示する。どこまでが引用として認められるかについては、絶対的な線引きがあるわけではなく、やり方次第でグレーや黒にもなりえるので注意が必要だ。
・屋外の美術品や建築物が写った写真
自分で撮った写真であっても、被写体が著作物の場合には著作権の問題が生ずる。ただし、一般公衆に開放されている屋外に恒常的に設置されている美術品や建築物に関しては大幅に緩和されており、自由に写真を掲載することができる。ちなみに人物が写っている場合には、プライバシーや肖像権といった別の問題が生ずる可能性がある。
・正規品の転売
著作権者には、著作物の複製物を無断で公衆に譲渡されないようにする「譲渡権」が与えられている。この規定は権利者に無断で複製した、いわゆる海賊版が販売店などに渡り販売されるのを防ぐためのもので、いったん適法に譲渡された場合には、以後の権利は消滅する。したがって、正規品のCDやソフトウェアなどをオークションに出品し自由に転売することができる。ただし、使用許諾契約に転売禁止の条項がある場合には、それが1999年末までに結んだものならば契約に従わなければならない。2000年1月1日以降の場合には、争えば契約条項自体が無効になるとされており、全て自由に転売することができる。
譲渡権は、公衆に対して行う場合に効力を持つが、映画に関しては公衆以外(特定少数)に対しても権利が及ぶ「頒布権」という権が与えられている。この頒布権における譲渡には明文化された規定はないが、譲渡権と同様、いったん適法に譲渡された後には譲渡部分が消滅するという最高裁の判例が出ている。
現行の著作権法は、明治以来の旧法を1970年に全面改訂したものだが、施行後も幾度か改正が重ねられ現在の形になっている。私たち利用者に直接関係する主な改正状況を以下にまとめておく。
1970年 著作権の保護期間が50年に延長
著作物の伝達者に与える「著作隣接権」を創設
1984年 貸しレコードを想定した「貸与権」を創設
私的複製から「公衆向けに設置された自動複製機器を用いた複製」を除外
1985年 プログラムを著作物として保護
1986年 データベースを著作物として保護
1988年 著作隣接権の保護期間が30年に延長
1991年 著作隣接権の保護期間が50年に延長
1992年 デジタル方式の複製に使用料を請求できる「私的録音録画補償金」を創設
1997年 ネット配信を想定した「送信可能化権」を創設
1999年 海賊版販売を想定した「譲渡権」を創設
私的複製から「技術的保護手段(コピープロテクト)の回避による複製」を除外
2003年 映画の著作物の保護期間が70年に延長
2004年 低価格な海外用CDの逆輸入を防ぐ還流防止措置を創設
昨年来からネット時代に合わせた著作権法の見直しが進められており、10月には文化庁の文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会と法制問題小委員会が相次いで中間報告をまとめ公表した。論議は、両委員会だけでも多岐にわたるが、ネット利用にも影響する事案がいくつか含まれている。
・海賊版対策の強化
海賊版の販売は前述の「譲渡権」の侵害行為となるが、オークションなどで「売ります」の告知を掲示した段階ではまだ譲渡されてはおらず、現行法では違法行為とはならないため、未然に防ぐことができない。そこで、海賊版の譲渡の告知行為そのものを著作権侵害とみなすべきだという意見が出されている。ただし、所持していた製品が海賊版であることを知らずに出品した場合には及ばないよう、「情を知って」という一定の条件下に限定する。
・親告罪の見直し
著作権法は、権利者が告訴することによってはじめて犯罪となる親告罪である。が、告訴までの期間が短かったり(知ってから6か月)、権利が複雑にからんでいる場合もあり、重大悪質な侵害行為に対応するためには見直しが必要との指摘があがっていた。この問題については、一律に非親告罪にするのは不適当であり、一部を非親告罪化することについても慎重な検討が必要としている。
・出品物の写真掲載
正規品の転売が許諾なしで自由に行えることは先に述べたとおりだが、商品そのものが著作物にあたる場合、現行法では出品にあたって商品写真などを掲載することが問題になる可能性がある(実際オークションの掲載写真が訴訟問題に発展しているケースがある)。この問題については、権利者の利益を不当に害することがない範囲で許諾なしに行えるようにすることが適当としている。
・私的複製の制限
私的複製は、店頭に置かれた高速ダビング機などを使うケース、およびプロテクトの回避によるものを除いて、自由に行うことができる。が、ファイル交換ソフトや違法サイトの存在は、正規品の流通を阻害しており、権利者側からは私的複製の範囲から除外するべきだとの意見が出されている。ただし、「情を知って」という一定の条件下に限定し、罰則はなしという条件だ。がその一方では、送信可能化権で十分対処できることであるという意見もある。条文次第ではさまざまな利用形態にも影響するし、権利侵害を確認するために権利のないものを取得してしまうと違法ということにもなりかねない。
合法サイトから入手した著作物についても、著作権料と補償金の二重取りの懸念を解消することに留意し、私的複製から除外すべきという意見がある。
・私的録音録画補償金の適用範囲見直し
コピーしても劣化しないデジタル機器による複製は、権利者の利益を不当に侵害しているということから、1992年にデジタル録音録画機器と記録媒体から補償金を徴収する制度が創設された。対象機器は別途政令で定められており、現行では適用外の携帯プレーヤーなども対象にすべきという意見が大勢を占める一方、パソコンや携帯電話などにも適用すべきと主張する権利者側と、制度そのものの存続を含めた抜本的な見直しが必要とするメーカーや利用者側との間で、大きな意見の食い違いが生じている。
これら以外にも、保護期間を現行の50年から70年に延長することを求める権利者の声が高まっている。著作権法には、著作物は先人たちが積み重ねてきた文化の中から生まれ、そしてそれがまた次の著作物を生み出す糧となって文化が発展して行くという大前提がある。このため一般的なモノの所有権と違い、永久には保護されない有限の権利となっており、権利が消滅した著作物は誰でも自由に利用することができる。
保護期間は、旧法の30年(段階的に38年まで延長)から50年に延長され、映画に関してはすでに70年に延長されている。この映画においては、このところ格安DVDをめぐり著作権が存続しているのか消滅したのかという問題がたびたび生じているが、未だ金になる一部の著作物の権利が次々と消滅を迎え始めており、今後の動向が気になるところである。
著作権の切れた著作物といっても、今ひとつピンとこない方は、富田倫生氏が開設した電子図書館「青空文庫」を一度覗いてみるとよい。そこには、夏目漱石や芥川龍之介、太宰治など、保護期間を終え自然に帰って行ったたくさんの作品たちが有志の手によって電子化され、いつでも誰でも無料で自由に読める世界が待っている。
(執筆:現代フォーラム/鈴木)
■著作権法(法令データ提供システム)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html
■青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/