●子どものネット犯罪に変化 ~ 「金銭目的の犯罪」が多発
現在、子供たちは親が考えているよりも奔放にインターネットを利用しており、犯罪被害にあうばかりでなく、加害者になってしまうケースも少なくない。そして、被害・加害どちらの場合も、金銭目的の犯罪が目立つようになっている。出会い系サイトで頻発している児童買春なども金銭がらみの事件だが、ネットでの空売り詐欺や恐喝、オンラインゲームのアイテム収集を狙う不正アクセスなど、これまであまり目立たなかった犯罪が多発している。今年6月、名古屋の中学生が未成年者として初めてフィッシング詐欺で摘発されたのも、その一例だ。
・ハンゲームで中3男子がフィッシング詐欺(2006/06/01)
こうした変化の背景には、インターネットがこれまでのメールや掲示板を利用したコミュニケーションツールから、欲望を手に入れるための道具に質を変えているという一面があるのではないだろうか。以下、子どもの幼い欲望に付け込む「ネットの罠」について具体的に見てみよう。
●「オンラインゲーム」~ アイテム狙いで不正アクセス、転売で小遣い稼ぎ
オンラインゲームでは子どもの犯罪が多発している。引き金は「アイテム欲しさ」であることが多く、正攻法では取得できない珍しいアイテムをゲットするための不正アクセスが後を絶たない。不正アクセスで自分が欲しいアイテムを持つキャラクターを勝手に操作し、目当てのアイテムを自分のキャラクターにプレゼントさせる。
こうして得たアイテムを転売して小遣い稼ぎをする子もいる。アイテム売買はゲーム規約では禁止されているが、インターネットオークションや専用サイトで、現実の通貨で売買されており、珍しいアイテムほど高い。
不正アクセスに必要な相手のIDやパスワードを盗み出す方法としては、ネット上で公開しているプロフィールから推測するほか、オンラインゲームのチャットや掲示板で相手から聞き出す、などの例が報告されている。
◇ネットの路地裏「ささやき機能」「メッセンジャー」
チャットには人目につかず話ができる「ささやき機能」がある。この機能を使えば、同時にチャットに参加している他のメンバーに気づかれずに指定した相手にコメントを送ることができる。同様に、通称「メッセ」で知られる簡易チャットソフト「メッセンジャー」では、相手のIDをメッセンジャーに登録して立ち上げておけば、いつでも相手と1対1の対話ができる。
ささやき機能やメッセンジャーを悪用して、メールアドレスなどの個人情報を聞き出したり、出会い系サイトなど危険なサイトへ誘導したりするケースがある。通常のチャットで交わされる会話を表通りの世間話とすれば、ささやき機能やメッセンジャーで交わされる会話は、路地裏で行われる密談のようなものだ。
●ネットの誘蛾灯「出会い系サイト」~ 被害者の8割は女子児童
繰り返し危険性が叫ばれ、さまざまな対策が施されているにもかかわらず、出会い系サイトに関係する事件の検挙件数はまったく減っていない。減るどころか、今年度上期で昨年度同期の3割も増加しているのが実情である(図1)。
図1 出会い系サイトに関係した事件の検挙件数の年別推移(2006年8月/警察庁)
被害者の8割以上は18歳未満の児童で、性別では女子が100%近く、なかには小学女児も含まれている。被害者の圧倒的多数が女子児童であることを再認識しておきたい。
一方、少数ながら子どもが大人から金銭を巻き上げる事件も起きている。今年6月には「援交狩り」と称して、出会い系サイトの利用者から現金を脅し取った高校生男女6人が逮捕されている。「出会い系サイト規制法」制定もどこ吹く風の有様だが、出会い系サイトはネットの誘蛾灯にも似て、あの手この手を使って心に隙がある子どもを引き寄せようとする。次項で詳説するが、引き込まれないための手立てが必要だ。
●頻発する「ネットの空売り」~ 元手と手間不要のお手軽詐欺
掲示板やオークションを舞台にした「空売り」が頻発している。今年3月、掲示板にゲーム用カードを販売すると書き込み、現金を騙し取った高校2年生(17歳)が逮捕された。4月には、掲示板に「ジャニーズのコンサートチケット譲ります」と書き込み、現金を詐取した中学2年生(13歳)が補導されている。
「嘘つきは泥棒の始まり」と言うが、子どもがインターネットでその第一歩を踏み出してしまう危険性は高い。ネットでは互いの顔が見えず、空売り詐欺には元手も手間も不要。つい掲示板に嘘を書いてしまう誘惑を押さえるには、その垣根はあまりに低いのである。
●「モデル募集」に引かれ児童ポルノの餌食に~ 少女たちの惨劇
「親に内緒でモデルデビュー」と、うきうき気分でモデルに応募したはずが、児童暴行ポルノの被害者になってしまった例がある。昨年、掲示板でモデルを募集して応募してきた少女たちに暴行をくわえ、ポルノ画像を製造・ネット販売する事件が起きた。被害画像はネット上に流出し、いまも回収不能な状態にある。少しの冒険心が結果として少女たちに与えたダメージは測り知れない。携帯電話のサイトでモデル募集に応募したところ、実際には売春を目的としたモデルクラブだったという事例も報告されている。
憧れの職業に手を伸ばそうとする子どもの思いを悪用する許せない大人たちが存在し、ネットを利用して子どもに魔の手を伸ばしていることを忘れてはいけない。
●大人も見極めが難しい「在宅アルバイト」に中高校生を誘い込む
在宅アルバイトを中高生に勧めるサイトや、「小学生でも始めることができる」と言い切るサイトがある。確かに始めることは簡単だが、なかには個人情報の取得だけを目的とした募集や、マルチ商法に誘うための偽りの募集が紛れ込んでいる可能性もある。在宅アルバイト募集は大人でもその怪しさを見抜けない巧妙なものが多く、往々にしてトラブルに発展する。
●親に隠れて綱渡り? 未成年OKの「ネットトレーディング」
未成年OKの「ネットトレーディング」が出現している。ライブドア事件が見せ付けたように、一瞬で大金を失うこともあるのが株取引だ。親が把握できる範囲で取引している間は安心だが、大きな赤字に陥ったことを親に言えず、資金調達のために危険な方向に走る可能性もある。その影響の大きさは、「社会勉強になる」ではすまされない。これまで事件になったことはないが、今後、犯罪に走るきっかけとなる要素を含む利用法ではないだろうか。
* * *
子どもを目先の欲望で釣ろうとするネットの罠は、あちこちに仕掛けられている。このような罠が子どもたちを「平穏な日常」からさらっていかないようにするにはどうすればよいか。次項で、危険から身を守る方法を見てみよう。
(=その2「子どもを守るために親ができること」へ続く=)
http://gendaiforum.typepad.jp/column/2006/08/index.html