東日本大震災の影響で、関東・東北圏では深刻な電力の需給問題が生じました。節電や火力発電所の復旧で、需給バランスはその後改善されましたが、冷房が増える夏場は再び悪化するおそれがあり、政府は5月13日、企業や家庭で使用する電力を昨夏より15%削減する目標を柱とした、「夏期の電力需給対策」を発表しました。東京電力管内で10.3%、東北電力管内で7.4%の供給不足が予想されたため、予備力を含む15%を目標に節電で乗り切ろうという計画です。家庭での節電はエアコン、冷蔵庫がポイントになりますが、パソコンも設定変更で30%もの節電が可能です。夏が来る前に、設定の見直しをしておきましょう。
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■「15%削減」で防げる夏場の停電
・消費電力の53%がエアコン、冷蔵庫は23%
・エアコンの設定温度1度アップで12.8%減
・冷蔵庫は「強」→「中」で11.2%減
・待機電力の節電は家電の「仕分け」から
■パソコンの省電力機能~設定変更で30%節電
・ディスプレイの「輝度40%」で23%節電
・90分以内の作業中断は「スリープ」が効果的
・「電源オプション」を設定する
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図1の青い部分は、猛暑だった昨夏の東京電力の最大ピーク日の全電力需要です。14時台のピーク時には、全体で約6000万kW(送電ロスを含む)で、そのうち家庭分(緑色の部分)は1800万kWとなっています。これに対し、東電の今夏の供給見込みは、上方修正された5月13日時点の発表で5,520万kW(7月末)~5,620万kW(8月末)。東北電力への電力融通を考慮した場合には5380万kW(7月末)~5,480万kW(8月末)となっています。
給力5380万kWを赤の横線で示しましたが、昨夏通りだと供給力を超えてしまい、大規模停電が発生してしまいます。そうならないよう、危険が予測される場合にはスケジュールに沿った計画停電を実施する予定ですが、ピーク時の使用電力を削減すれば、どちらも回避できます。そのため、危険な状態になりそうな平日の9時~20時に、使用電力の15%削減目指した節電に取り組もうとなったのです。
折れ線グラフの青色は6月時点の平日の需要、緑色は前年の相当日の需要です。東京電力管内では、すでに節電対策が進んでおり、平日の該当時間帯での節電目標15%をクリアしています。東北電力も電力の使用状況を公表しており、同様の傾向を示しています。したがって、これまで通りの生活を送りつつ、夏場に増える電力を去年より15%削減すれば、停電の心配はなくなります。
図2は、ピーク時に家庭で使われている機器の電力需要構成です。これは全世帯の平均なので、日中に家にいるのかどうかで状況が大きく変わってきます。在宅家庭では、エアコンの占める割合がさらに増える一方、非在宅家庭でペットもいない場合には、冷蔵庫と電話機、録画機器くらいしか稼働していないので、消費電力量は非常に少なくなります。冷蔵庫の消費電力が大きな割合を占め、待機電力も目立ってきます。
図2:家庭の使用機器の電力需要構成(夏のピーク時)
夏のピーク時に在宅家庭で大量の電力を消費しているのがエアコンです。エアコンの冷房は、省エネルギーセンターの調査によると設定温度を1度上げれば、電力消費を12.8%削減できるそうです。去年より2度上げれば、夏場の上積み分を供給力内に押さえられそうです。冷房時に消費する電力量は、室温を何度下げるかで変わってきます。「すだれ」や「よしず」などを使って遮光し、室温を上げないように工夫することによっても、大きな節電効果が得られます。
留守中の家庭で大きな割合を占めている冷蔵庫ですが、こちらは強度設定を「強」から「中」変更すると11.2%。壁から離して設置すると8.2%。詰め込み量を減らすと7.7%の電力削減効果があるそうなので検討してみてください。
機器の中には、電源プラグをコンセントに挿しているだけで電力を消費してしまうものがあります。使用していない間も消費する、このような電力を待機電力といいます。機器ひとつひとつの待機電力少ないですが、24時間消費し続けるので、台数が増えると電力量は馬鹿にできなくなります。省エネルギーセンターの2008年度の調査によると、一世帯あたりの年間の待機電力量は285kWhとのことです。これは、100Wの電灯を4か月間点けっぱなしにしたのと同じで、一世帯あたりの全消費電力量の6.0%に相当します(注:首都圏の一般家庭を中心とした調査とのことで、全体的に高目の数値が出ています)。
機器の中には、省エネモードを備えたものがあり、これを有効にすると全体の待機電力量を8.1%削減できるそうです。さらにリモコン付き機器の電源を、リモコンの電源ボタンではなく本体の主電源で切るようにすると、削減率は23.5%に。未使用時にはコンセントからプラグ抜いておくようにすれば、39.6%削減できるそうです。45世帯が実施すれば、1世帯分の全使用量を丸々捻出できる計算です。
電源プラグを全部抜いてしまえば、待機電力を100%削減できるはずですが、冷蔵庫のように常に挿しておかないといけない機器があるため、そうはなりません。留守番電話やテレビの録画機も、このような自動運転を行っている機器なので、コンセントから抜くと機能が損なわれてしまいます。インターネット接続に使うターミナルアダプタのプラグを抜いてしまい、IP電話まで不通になっていたという笑えない話もあるので、電源スイッチのない機器に関しては、コンセントから抜いてもかまわないかを事前に確認しておいてください。このほかにも、内蔵時計がリセットされるとか、テレビの電子番組表などが消えてしまうといった、大小さまざまな障害があります。どこまで許容できるかは人それぞれなので、支障のない範囲で判断してください。逆に、未使用中の充電器やACアダプタなどは、電力を無駄に消費しているだけなので、積極的に抜きましょう。コンセントから抜く機器が決まったら、それらをスイッチ付きのテーブルタップに集めておくと、まとめて切断できて間違いも起きません。
【関連URL】
・節電 ‐電力消費をおさえるには‐(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/setsuden/
・節電.go.jp(政府の節電ポータルサイト)
http://setsuden.go.jp/
・待機時消費電力(省エネルギーセンター)
http://www.eccj.or.jp/standby/index.html
・家庭でできる省エネ行動とその効果に関する調査(省エネルギーセンター)
http://www.eccj.or.jp/lifestyle/
・今夏の需給見通しと対策について(第3報)(東京電力)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/11051304-j.html
・今夏の電力需給の見通しについて[PDF](北陸電力)
http://www.rikuden.co.jp/press/attach/11061501.pdf
・今夏の需給見通しについて(中国電力)
http://www.energia.co.jp/press/11/p110608-1.html
・今夏の需給見通しについて(九州電力)
http://www.kyuden.co.jp/press_h110609b-1.html
・今夏の需給見通しと需給対策の状況について(関西電力)
http://www.kepco.co.jp/pressre/2011/0610-1j.html
パソコンの消費電力は、機種や使い方にもよりますが、数10~100W程度です。家庭では、オフィスと違って台数も少なく使用時間も短いので、全消費電力に占める割合はわずかですが、搭載されている省電力機能を活用すると、さらなる圧縮が期待できます。マイクロソフトが電力中央研究所の協力を得て検証したところ、平均30%の削減効果が得られたそうです。通常利用のパソコン3台が消費する電力で、節電パソコンが4台利用できるのです。
・ディスプレイの「輝度40%」で23%節電
パソコンが消費する電力の中で、大きな割合を占めるのがディスプレイです。最も普及している液晶ディスプレイは、背面から照射された一定の光(バックライト)を、前面のパネルが微細なドット単位で遮ることにより、光量を調整して画面を描きます。パソコン用ディスプレイの多くは、部屋の明るさや画面に描かれているものに関係なく、バックライトが常に一定の光を放ち一定の電力を消費し続けます。画面の輝度(明るさ)を作業に支障の無い範囲で落とせば、消費する電力量の削減につながります。マイクロソフトの調査では、輝度を既定の100%から40%に落とすと、平均23%の削減効果があったそうです。
ディスプレイの輝度調整は、外部ディスプレイ本体のスイッチやパソコンキーボードで操作できるほか、Windows Vista/7のノートパソコンは、後述する「電源オプション」で設定することもできます。
使う時だけ電源を入れるのが、電力削減の基本です。照明などは、こまめなオン/オフで節電効果が上がりますが、パソコンの場合には必ずしもそうとは限りません。パソコンは、本体の起動時や終了時に大きな電力を消費してしまうので、切っている時間が短いと、完全停止が逆効果になってしまいます。そこで、Windowsには本体の電源を切らずにディスプレイやハードディスクだけを個別に止められる機能(後述)が用意されており、本体も柔軟な停止方法が選べるようになっています。
Windowsの基本的な停止方法には、「シャットダウン」「スリープ(スタンバイ)」「休止」の3種類があります。「シャットダウン」は、デスクトップを全て片づけて完全停止します。停止中の待機電力は最小ですが、シャットダウン時や再起動時には最も大きな電力を消費します。
他の2つはデスクトップの作業状態を保ったまま一時停止するモードです。復帰後には、使用中のアプリケーションなども含んだ元のデスクトップに戻るので、シャットダウンするよりも高速に作業が再開できます。「スリープ」と「休止」の違いは、「スリープ」がメモリーの状態をそのまま保つのに対し、「休止」がハードディスクに書き出す点です。「スリープ」はメモリーに給電を続けるため、待機電力は増えてしまいますが、停止/再開は最も高速で消費電力も最小で済みます。マイクロソフトの調査では、中断時間がおよそ90分以内であれば、トータルの消費電力量は「スリープ」が最も低く、効果的に節電できるということです。スリープは、スタートメニューから手動で以降できるほか、後述する「電源オプション」で自動設定することもできます。また、ノートパソコンの多くは、使用中に蓋を閉じると、このスリープモードに移行するように設定されています。
なお、スリープ中に停電になったり電源プラグを抜いてしまった場合、ノートパソコンはバッテリー駆動に切り替わるので問題ありませんが、デスクトップパソコンはメモリーの内容を失ってしまうので注意が必要です。消費電力は若干増えますが、スリープ時にハードディスクにも書き出しておく「ハイブリッドスリープ」が利用できる場合には、メモリーが有効ならスリープ状態から、喪失した場合には休止状態から復帰するので支障をきたしません。ちなみにスリープ中にノートパソコンのバッテリー残量が少なくなってしまった場合には、自動的にメモリの内容を書き出して休止状態に移行するので、こちらも心配ありません。
パソコンの省電力機能は、コントロールパネルの「電源オプション」にまとめられており、一定時間何も操作しないとディスプレイやハードディスクの電源を切ったり、スリープ状態に移行したりといったことを、自動的に行うように設定できます。あらかじめプリセットされた「電源プラン」が用意されているので、環境に合ったものを選んでカスタマイズすると簡単に設定できます。メーカーによっては、独自にチューニングした省電力用の「電源プラン」や管理ソフトなどが用意されている場合もあるので、提供されている場合には、それらを利用すると、効果的に節電できるでしょう。
専用ソフトなどが用意されておらず、電源オプションを自分で設定するのも面倒という方は、マイクロソフトから電源プランの節電設定を自動的に行う「Windows PC 自動節電プログラム」が提供されています。このツールを使用すると、以下の設定が自動的に適用されます。これが、同社が検証した30%節電の設定です。
・ノートPC(Windows 7/Vista)の「画面の明るさ」を40%
・不使用時のノートPC(Windows 7)の「ディスプレイを暗くする」までの時間を2分
・不使用時の「ディスプレイの電源を切る」までの時間を5分
・不使用時の「コンピュータをスリープ状態にする」までの時間を15分
【関連URL】
Windows PC 節電策(マイクロソフト)
http://technet.microsoft.com/ja-jp/windows/gg715287
・Windows PC 自動節電プログラムについて(マイクロソフト)
http://support.microsoft.com/kb/2545427/ja
・ (執筆:現代フォーラム/鈴木)