いじめ、名誉毀損、業務妨害…ネットの書き込みをめぐるトラブルは後を絶たないが、時には当人の知らぬところで予想外の騒ぎに発展してしまったり、まったく身に覚えのない書き込みで大騒動に巻き込まれてしまうこともある。ちょっとした行き違いから生じた、ネットで起きた痛い誤爆3件をお届けする。
■勝手に名前を使われプロフに悪口、リアル襲撃を受けた中2男子生徒
7月から8月にかけ、自分のプロフの掲示板に「うざい、死ね」などと書き込まれて腹を立てた東京の中学3年男子生徒(14歳)。仲間20人を集め、書かれていた学校名と名前から書き込み者を探し出し、8月27日夕方、都内のゲームセンターで遊んでいた別の中学の2年男子生徒(14歳)を表に連れ出し、書き込みに対する謝罪を要求した。
中2男子生徒にはまったく身に覚えがなく謝らないでいると、中3男子生徒らは殴るなどの暴行を加え、首や腰に約2週間のけがを負わせた。
警視庁少年事件課と野方署は12月4日、中2男子生徒を襲った中3男子生徒ら3人を傷害容疑で逮捕したと発表した。プロフの書き込みは中2男子生徒の友人が勝手に名前を使って書き込んでいたもので、被害者の男子生徒は人違いで襲われたのだ。
・警視庁
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/
■Wikipediaを更新したら犯人扱いされた会社員
何か事件が起きると、誰でも書き込めるネットの百科事典Wikipediaの該当項目が速攻で更新され、新しい情報が書き込まれていることがよくある。
11月19日午前2時半頃、毎日新聞社のニュースサイト「毎日jp」に「元次官宅襲撃:事件6時間前にネット書き込み…犯行示唆」という記事が掲載された。Wikipediaの「社会保険庁長官」の項目で、歴代の社会保険庁長官の一覧表に「×は暗殺された人物を表す」というただし書きと、妻が刺された中野区の元次官の名前に「×」を加える編集が行われており、それが事件の6時間前、11月18日の正午過ぎに編集されたものだというのだ。
ほどなくネット掲示板で当該記事がとり上げられるも、即座に時刻の読み間違いが指摘。Wikipediaは日本時間よりも9時間遅いUTC(協定世界時)で表記されており、実際に編集されたのは事件前ではなく事件の報道後だったのだ。Wikipediaに犯行予告だったはずの記事は、次の瞬間から大誤報に姿を変えて掲示板をにぎわせた。同社は掲載1時間後の午前3時半頃、サイトから当該記事を削除するが紙面には間に合わず、朝にはその日の朝刊を取り上げるテレビ番組で紹介。さらには、朝刊の紙面から再び誤報入りの記事がサイトに掲載されるなどドタバタが続き、同社は午前11時半頃、サイトに「書き込みの時刻は事件前ではなく、事件の報道後でした」とするお詫びを掲載。同日の夕刊および翌日の朝刊にも、おわびと訂正を掲載した。
当該項目を編集した会社員の男性は、19日午前5時過ぎ、騒ぎなってしまったことを当該項目のノートで謝罪。その後の書き込みには、警察に丸1日取り調べを受け精神的にも疲れたことなども綴られている。
・おわび:「ネットに犯行示唆?」の見出しと記事=11月19日付朝刊(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/jiken/20081119/etc/owabi.html
・ノート社会保険庁長官(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%88:%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BF%9D%E9%99%BA%E5%BA%81%E9%95%B7%E5%AE%98
■置き忘れた携帯で殺人予告を書き込まれ、誤認逮捕
ネット掲示板の犯罪予告摘発がたけなわだった7月17日午前4時半頃、三重県桑名市の遊園地「ナガシマスパーランド」に関する「2ちゃんねる」のスレッドに、遊園地のジャンボ海水プールでの無差別殺人を予告する内容が書き込まれた。書き込み者の情報はその日のうちに開示され、三重県警桑名署は8月27日、施設を運営する長島観光開発の社員らにプールの警戒等をさせ業務を妨害したとして、名古屋市の男性(39歳)を偽計業務妨害容疑で逮捕した。身に覚えのない男性は容疑を否認したが、実名で報道された挙句に17日間こう留され、9月12日に処分保留で釈放された。
三重県警鈴鹿署は11月6日、7月7日午前11時45分頃に自分の携帯電話を使ってネット掲示板「2ちゃんねる」にアクセスし、三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットでの無差別殺人の実行を予告する内容を書き込み施設を運営するモビリティランドの業務を妨害したとして、鈴鹿市の会社員の男(24歳)を逮捕。同月21日、県警は長島の殺人予告もこの男が書き込んでいたとして再逮捕するとともに、先に逮捕した名古屋市の男性が誤認逮捕だったと発表した。名古屋市の男性は勤務先の飲食店に携帯電話を置き忘れ、同店が入るビルを警備していた鈴鹿市の会社員の男が、その携帯電話を使って書き込んでいたのだという。
同時期に書き込まれた同じ三重県内の施設を狙った2つの予告書き込みだが、使われた携帯電話は異なり、両者にそれ以上の共通点は見当たらない。ところが、名古屋市の男性が置き忘れた携帯電話からは、もう1件、別の予告も書き込まれていたのだ。
書き込みがあったのは同じ「2ちゃんねる」の近鉄特急に関するスレッドで、名古屋発の特急アーバンライナーに爆弾を仕掛けるという内容だった。こちらは愛知県警に通報され県警が近鉄名古屋駅の警戒にあたっていたらしく、7月19日午前8時半頃には、駅の警戒をあざ笑うかのような内容と、爆破ではなく刺殺だとする第二弾の予告が書き込まれた。
鈴鹿の予告は7月12日に、近鉄の第二弾予告は22日に書き込み者の情報が開示され、両者が同じ携帯から書き込まれたものであることが判明する。長島・近鉄第一弾を書き込んだ携帯とは異なるが、両者には近鉄の予告という接点があったのだ。さらに、近鉄第二弾予告が書き込まれた19日の鈴鹿関係のスレッドには、長島・近鉄の予告も自分であり、落ちていた他人の携帯を使ったとの告白も残っていた。告白の書き込み者情報は開示されなかったため、同一人物の書き込みによるものかどうかは分からないが、警察がもう少していねいに事実関係を調べていたなら、あるいは我々がそれを指摘していたのなら、もっと早く名古屋の男性の容疑を晴らすことができたかも知れない。
12月11日、津地方検察庁四日市支部は名古屋市の男性を不起訴(嫌疑なし)とし、これら殺人予告を書き込んだ鈴鹿市の男を追起訴した。
・三重県警察
http://www.police.pref.mie.jp/
(2008/12/26 ネットセキュリティニュース)