政府は17日、国内における自殺の概要や政府が講じた自殺対策の実施状況をまとめ、政府が国会に提出する年次報告書、「自殺対策白書」の2009年版を閣議決定し公表した。
白書によると、昨年1年間の自殺者数は、3万2249人(警察庁の自殺統計)。前年に比べると844人(2.6%)減少してたものの、自殺者が急増した1998年以降、連続して3万人を超える状態が続いている。1998年は、特に中高年の男性の増加が際立っており、近年は減少方向にあるものの依然として高い割合を占めている。同年以降、減少に転じた学生や生徒の自殺は、2003年から再び増加傾向を示しており、昨年は前年比11.3%増の972人と過去最多を記録した。
インターネットがらみの自殺は、これまでの集団自殺の呼びかけや自殺予告などに加え、昨年は、ネットの書き込みを模倣したと見られる硫化水素自殺が多数発生し、大きな社会問題となった。警察庁の自殺統計によると、昨年の硫化水素による自殺者数は、前年の29人から1056人へと激増している。
インターネットで広まったとマスコミが盛んに報じていた硫化水素自殺だが、内閣府では、急速な広まりは硫化水素自殺の情報が報道を通じて広く知られるようになったのが要因と見て、報道との関わりを調査。自殺者数の増加と新聞やテレビ報道の露出度が比例していたとの結論に至った。
この調査では、硫化水素自殺とネットとの関わりについては実施していないので、当編集部が当時調査した内容と突き合わせて、少しフォローしておきたい。
編集部の調査は昨年4月、自殺報道がピークを迎えようとしていた頃に行ったもの。「詳細はWebで」とあおっているかのような報道が、自殺志願者たちをかき立てているのではないかという結論を得ていたが、当時の状況下では、事実関係の洗い出しが負の情報提供になりかねないと判断。記事にししないまま、お蔵入りしていた。
【硫化水素自殺を煽ったネットと報道、負のコラボレーション】
硫化水素自殺の要因とみられるネットの書き込みの原型は、2006年にネット掲示板「2ちゃんねる」に立てられた「硫化水素で逝こう」のスレッドに見ることができる。社会的な影響はおろか、ネット上に広がる様子もまだ見られなかった頃のことだ。
翌2007年には、その後延々と続くことになる「硫化水素による自殺」のスレッドが始まり、その年の暮れに「練炭自殺に代わる新しい自殺方法が開発されました」のスレッドが登場。自殺を誘引するようなコピペは、この文言であちらこちらに貼られてネット上に拡散して行った。警察庁の自殺統計では、それまで月数件で推移していた硫化水素による自殺者数が、年明けの1月には27件に跳ね上がっており、社会的な影響も見てとれる。
2月に入ると、マスコミが硫化水素の名を上げて報道するようになり、3月17日、「インターネット上でこうした手口を知った可能性もある」などとした報道を皮切りに、ネットと絡めたマスコミ報道がヒートアップして行く。
こうした報道の影響はネット上にもすぐに現れており、3月18日付のヤフーの急上昇キーワードには、報道内で使われた「硫化水素中毒」が4位に、「トイレ用洗剤 自殺」が5位にランクインしている。ネットに蓄積された情報と、それを広めるマスコミ報道という負のコラボレーションにより、3月には64件、ピークの4月には203件もの自殺者数を記録。巻き添えとなる人たちも続出するという異常な事態となってしまった。
内閣府は、4月初めに報道各社に対し報道への配慮を呼びかけるなどの対策を講じ、月末にはネット上の有害情報規制や該当商品の販売自粛処置などの呼びかけも行ったが、白書の調査に記されている通り、具体的な対策までに時間がかかりすぎており、遅きに失した感は否めない。
(2009/11/27 ネットセキュリティニュース)
■自殺対策白書(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/index-w.html
・平成20年度硫化水素自殺事案とマスメディア報道に関する調査研究[PDF](内閣府)
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2009/pdf/pdf_honpen/h099_s.pdf