アップル社の有料音楽配信サイト「iTunes Store」で発生している不正請求問題について、消費者庁はサイト運営を行っている「iTunes」に2度目の公開質問状を出していたが、同社から5日付で回答を得、6日に同庁サイトに公開した。
■これまでの経緯
消費者庁は今年2月12日、有料音楽配信サイト利用に関する注意喚起を同庁サイトに掲載した。有料音楽配信サイトの利用者が心当たりのない代金の請求を受けたという相談が消費者庁や国民生活センターに寄せられていたためだ。被害相談事例は昨年4月以降、注意喚起の掲載時点まで43件。昨秋から増加し、今年1月にも新たな相談を受けたという。
この時点ではどの音楽配信サイトか明記していなかったが、5日後の17日、同庁はiTunesを名指して公開質問状を出した。質問内容は5項目で、「不正請求トラブルについてどの程度把握しているか」「不正請求の原因は何か」「顧客のIDやパスワード、カード情報保護努力の内容」「不正請求トラブルの連絡を受けた際の対応」「問合わせメールへの回答に要する時間、また電子メール以外の窓口設置予定はないか」を問うものだった。
iTunesは3月2日付でこれらの質問に回答したが、同庁はより詳しい情報が必要とし、3月4日付で「補足的な質問」を出し、3月12日までの回答を求めた。iTunesからの回答は4月5日付で届いた。これらの質問と回答はすべて、同庁サイトに公開されている。
■消費者庁の質問とiTunesの回答
同庁が3月2日付で出した「補足的な質問」は大きく6項目ある。これらに対するiTunesの回答は噛み合っていないものも散見する。いくつか質問と回答をみてみよう。
・「トラブルはとくに多くはない」とする根拠
iTunesは前回、日本において不正請求トラブルが異常に増加しているとは認識していないと回答し、消費者庁からその根拠について問われていた。同社は過去6か月以上の期間、利用者から寄せられた不正請求クレームについて調査した結果、月平均15~20件という数字を得ており、急増レベルではないと判断したと述べた。これは他国と比較しても著しく少ない数字であるという。消費者庁は昨年4月から今年1月まで43件プラスアルファの問い合わせがあり、看過できない数字としたわけだが、この齟齬はどのように摺り合わせが可能だろうか。
・「不正請求」クレームの件数と内容
利用者から連絡があった不正請求の件数と内容(発生時期や請求金額など)についての質問に対し、iTunesは利用者のプライバシーの観点から答えられないとしていた。消費者庁はそれを受け、個人情報保護に支障がない範囲での回答を求めたが、同社の回答は、調査チームが不正請求について毎日詳細なレポートをあげており、そのレポートに基づいてアカウントを無効化しているというに留まった。
・「iTunes特有の問題ではない」とする根拠
不正請求発生の原因として、iTunesは「クレジットカード詐欺」「利用者のメールアカウントの漏えい」「利用者がアカウント情報を誤って共有」の3種をあげていた。今回、それらを原因とする根拠、および「これらはiTunes特有の問題ではない」とする根拠を消費者庁は求めた。iTunesは、これまで行ってきた多くの調査や蓄積してきた知識に基づいて分析した結果、不正請求の60%は盗まれたクレジットカードで作られた新アカウントによるもの、40%は既存アカウントの不正使用(情報漏えい)、または不正アクセスされたものと分類していると回答。多くのカード会社やエキスパートと討議を重ね、クレジットカード詐欺、アカウント不正使用は同社に限って発生しているものではないとした。
この結論は、とくに今回の日本の利用者からのクレームを調査分析した結果得たものということではないようで、消費者庁の質問に正面から答えたものかどうか疑問が残る。
・「異議ある請求はカード会社に返金している」について
iTunesは、利用者から異議が述べられた請求について、クレジットカード会社へのチャージバック(返金)に応じていると述べた。消費者庁は、その詳しい内容(返金時期、カード会社ごと件数、返金総額など)を求めた。返金に応じない場合の理由、返金を行っている旨を消費者に情報提供しているかどうかも尋ねた。同社の回答は、日本において2009年10月~2010年3月の間に生じた不正請求について、返金の請求紛争はすべて受け付けているとしたうえで、詳細内容は機密事項とした。不正課金が発生した取引の割合は取引金額全体の0.1%未満だという。
消費者庁は不正請求の実態を把握し利用者を救済できる情報を得ようとして質問を構成しているが、iTunesは同社の世界規模のセキュリティ対策を盾に、一般論で応じている印象を受ける。しかし、不正請求トラブル発生の事実と注意事項を同社ホームページで告知してはどうかという同庁の提案を「検討している」と述べるなど、一致点もみられる。
同社はまた、消費者保護対策についての質問に答え、不正を検知する新システムの導入について明かした。iTunes Store上で行われる活動を世界規模でモニタリングし、不審な行動を取り締まることができる新システムを導入する予定で、今後アカウントの作成および変更は全て、その新システムを通じて行うとしている。導入プロセスは今年3月31日から開始しており、現在はその結果の分析とルールの構成を行っている段階という。
(2010/04/08 ネットセキュリティニュース)
■消費者庁の公開文書[PDF]
・補足的な質問に対する音楽情報サイト運営事業者からの回答について(2010/04/06)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100406adjustments_1.pdf
・音楽情報サイト運営事業者に対する補足的な質問について(2010/03/04)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100304adjustments_2.pdf
・照会事項に対する音楽情報サイト運営事業者からの回答について(2010/03/04)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100304adjustments_1.pdf
・音楽情報サイト運営事業者に対する照会について(2010/02/17)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100217adjustments_2.pdf
・音楽情報サイトの利用者が心当たりのない利用代金の請求を受ける事例の発生について(2010/02/12)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100212adjustments_1.pdf
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