先頃、レンタルサーバーでWebサイトやメールなどのデータが大量に消失する事故が発生した。復旧は成功せず、バックアップデータを用意していなかったユーザーが失ったものは大きい。他のサービスや家庭のパソコン環境でも起こり得る事故なので、この機会にもう一度、「バックアップ」を見直しておきたい。
事故が起きたレンタルサーバーは稼働率100%をうたう無停止型のサービスで、データを定期的にバックアップする機能も提供されていた。このため、手元にバックアップを用意しておく必要はないと考えたユーザーも多かったようだ。業者側は復旧作業を試みたが成功せず、サーバー内のデータは完全に失われ、ユーザーの手元に戻る見込みはなくなった。この事故は、複数の要因が重なって起きたものだが、他のサービスや家庭のパソコン環境でも起こり得ることだ。
ディスクやパソコンの故障や紛失などの事故に備え、予備を作成しておくバックアップだが、想定する事故とバックアップの運用方法にギャップがあると、バックアップがバックアップとして機能せず、期待外れの結果を招くことがある。いま自分が採用しているバックアップ機能は、予想される事故に対応できるものかどうか、確認しておきたい。
■「同期」「リアルタイムバックアップ」機能について
無停止型のサービスは、メインの環境とスタンバイ環境を並行して動かし、メイン環境に障害が発生した場合には、即座にスタンバイ環境に切り替えて稼働を続ける仕組みだ。一般家庭で二重化したシステムを運用している例は少ないが、一部のバックアップソフトなどで、「同期」や「リアルタイムバックアップ」などと呼んでいる機能が、これと似たような環境を提供する。
ファイルを更新すると即座にバックアップ先に反映してくれるこの機能は、外付けハードディスクなどに常に最新のコピーを自動的に作成してくれるため、メインのパソコンが壊れた場合でも、別のパソコンから直前に保存したデータを取り戻すことができる。ただし、ファイルを誤って更新してしまったり、削除してしまったりすると、それらも即座に反映されてしてしまうため、このような事態を想定したバックアップとしては機能しない。これとは別に定期的にバックアップを作成しておき、いつでも過去のデータを取り戻せるようにしておく必要がある。
■複数メディアで「定期的バックアップ」を
定期的なバックアップを、同じドライブや常に接続されている別のドライブに作成している場合には、パソコン本体やOSなどのシステムの障害、ウイルス感染などで、バックアップも含めたファイル全壊の可能性がある。このような事態も想定する場合には、バックアップ先にパソコンに未接続の状態で保管しておけるメディアを選ぶ必要がある。
バックアップメディアが1セットしかない場合には、バックアップ中に安全なバックアップが存在しない状態になるということも認識しておいていただきたい。バックアップ中に何らかのトラブルが発生した場合には、バックアップも含めたファイル全壊の可能性が残るのだ。複数のバックアップセットを順に使うようにすると、安全なバックアップの不在を防ぐことができる。
■リカバリーに火災・天災を想定する場合
バックアップからのリカバリーに火災を想定する場合には、バックアップメディアをすぐに持ち出せるようにしておくことや、持ち出せなかった場合に備えた耐火金庫への保管も考えておく必要がある。通常の耐火金庫は、火災から書類などを守るこをと想定しているため、内部の温度がデータメディアには耐えられないレベルまで上昇してしまう。焼け残っても、データが読み出せなくなってしまう可能性があるのだ。バックアップメディアの保管には、必ずデータメディア用のものを使用していただきたい。
火災を想定したバックアップ先には、オンラインストレージサービスも有効な選択肢だ。保管先のデータセンターが地理的に離れていれば、大規模な天災が発生した場合にも対処できるだろう。ただし過去には、サービスの停止やサーバーの差し押さえで、保管したデータにアクセスできなくなってしまったという事例もあるので注意したい。
ハードディスクやパソコン本体の故障、OSやアプリケーションの不具合に起因する事故、操作ミスなどの人為的な事故、火災や天災など、バックアップからの復旧に期待する局面は人それぞれだ。どういった局面を想定するかによって、バックアップの方法や運用は変わり、手間やコストも違ってくるので、一概にどれがよいかを決めることはできない。大切なのは、各自が行っているバックアップで対応可能な局面を把握し、期待外れの結果にならないよう、あらかじめ対処または妥協しておくことではないだろうか。
(2012/07/05 ネットセキュリティニュース)
【関連記事:ネットセキュリティニューストコラム】
・今日から始めよう!定期的な「バックアップ」(2012年1月)
【関連URL】
・レンタルサーバ業者におけるデータ消失事象について(注意喚起)[PDF](内閣官房情報セキュリティセンター)
http://www.nisc.go.jp/active/general/pdf/rentalsv_kanki_120702.pdf
・6/20に発生した大規模障害に関するお詫びとお知らせ(ファーストサーバ)
http://support2.fsv.jp/urgent/
・大規模障害関連FAQ(ファーストサーバ)
http://www.faq2.fsv.jp/faq/question.html