消費者庁は12日、インターネットの消費者トラブルとして、有料音楽配信サイト利用をめぐる注意喚起をホームページ上で発表した。
発表によると、有料音楽配信サイトの利用者が心当たりのない代金の請求を受けたという相談事例が、消費者庁と国民生活センターに寄せられているという。こうした請求をめぐる被害相談事例の数は現時点で43件。昨年秋から増加しており、今年1月にも新たな相談が寄せられたという。
トラブルが起きているサイトの名称は明記されていないが、相談事例の多くは、クレジットカードの利用履歴や請求書の明細を見て、利用した覚えがないのに有料音楽配信サイトで購入した代金が請求されていることに気づく、というパターンだ。音楽配信サイト以外での不正使用は行われていないので、何らかの形でサイトのログインIDやパスワードが盗まれ、登録したクレジットカードが悪用されたと考えられる。 消費者庁は、有料音楽配信サイト利用者に対して、クレジットカードの請求明細を確認すること、不審な点があればクレジットカード会社やサイト運営事業者に連絡するようにと助言している。クレジットカード番号やID、パスワードのなどの個人情報管理にも注意を促している。
■「iTunes」で不正請求被害多発、アップル社はID流出を否定
1月中に朝日新聞が2度にわたって、「iTunes」で不正請求被害が多発してる記事を掲載している。アップル社は同サイト側からのID流出否定しているが、一定の条件が揃うと「なりすまし」が可能になるおそれがあり、アップル社も事実関係の調査を始めたという内容だ。
このためか、消費者庁の注意喚起が発表されると、報道各社は有料音楽配信サイトをアップル社が運営する「iTunes」と特定し、同サイトの利用者に請求トラブルが多発していることを伝えた。
各社の消費者庁への取材によると、消費者庁が国内の大手クレジットカード会社5社から聞き取りを行ったところ、これまでにあわせて95件の事例が確認できたとしている。また、消費者庁は注意喚起にとどまらず、アップル社の担当者を呼んでトラブルの内容について詳しく聞き取るとともに、「iTunes」のサイトでも利用者に注意を呼びかけるよう同社に働きかけることにしているという。
■アップル社は購入解約に応じず、カード会社は被害補てんせず
インターネット上の個人ブログやコミュニティサイトの掲示板などで、被害事例の体験談が見られる。クレジットの請求明細を見て被害に気づき、購入履歴等を確認しようとしてIDやパスワードが盗まれて変更されていることを知る、というパターンが多いようだ。被害金額はさまざまだが、発覚後に浮かび上がる問題点は次の2点である。
1つは、IDとパスワードの管理責任は消費者側にあるため、アップル社が購入契約の解約に応じない。もう1つは、クレジットカード自体の不正利用ではなく、IDやアカウントの不正利用なので、基本的にカード会社は被害補てんをしない。
ユーザーは、自分が購入したものではないのだから、支払い請求を受けても支払いたくないわけだが、現実は厳しい。カード情報流出や盗難と違い、「請求トラブル」とされるゆえんだ。
■カード情報の盗難なしに「カードが使われてしまう」リスク
クレジットカード情報を保存しているサイトは、クラックされればカード情報が盗まれる可能性がある。また、フィッシングやウイルス感染など何らかの形でアカウントが盗まれれば、カードが使われてしまうリスクが生じる。
ショッピングの際にカード情報を入力する手間は省けるが、その便利さはアカウントを盗んだ人間にも便利に使えるということだ。登録されているカード情報が閲覧できれば、カード情報を盗んでよそで使うこともできるし、盗めなくても当該サイトではカード情報の入力なしで買い物ができてしまう。
今回の一連の「iTunes」トラブルはまさに後者の事例だが、ほかの有料配信サイトやオンラインゲームサイト、各種ショッピングサイトでも同様のトラブルが起こるおそれは常にある。ネットでカード決済を利用する際には、その便利さを見るだけでなく、表裏一体の関係にある危険性を見落とさないようにしたい。
■便利さと引き換えのリスクへの覚悟と個人情報管理
「iTunes」の請求トラブルについては個人情報流出の経緯や原因はわかっておらず、アップル社は同社側からの流出を否定している。消費者庁が動き出したことで、事態の打開に進捗が見られるかもしれない。しかしそれは、すでに発生している代金支払いをどうするかという問題に焦点が当てられている。盗難や不正使用の危険がつきまとう現状において、ネットでカード決済を利用するには、便利さと引き換えのリスクへの覚悟と個人情報管理のセルフケアが必須といえそうだ。
(2010/02/15 ネットセキュリティニュース)
■音楽情報サイトの利用者が心当たりのない利用代金の請求を受ける事例の発生について(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/adjustments/pdf/100212adjustments_1.pdf