「秋葉原通り魔事件」が起きた2008年、ネット掲示板にはその模倣をするかのように殺人予告の書き込みが相次ぎ、多数の逮捕者が出た。編集部の調べでは、犯罪予告の書込みによる検挙者は事件が起きた2008年6月には32人、翌7月には30人にも達している(※注)。
その後2年近く経過し、凶悪事件の後遺症のような”ブーム”は去っているが、犯罪予告で逮捕される例が根絶したわけではない。今月と先月、殺人予告や殺人依頼の書き込みで2人が逮捕されている。どのようなケースだったかをみてみよう。
■3月:「子供を大量に殺します」と書き込んだ無職の男を逮捕
大阪府警八尾署は3月9日、ネット掲示板に子どもの殺害予告を書き込んだとして、威力業務妨害容疑で、大阪府八尾市の無職の男(28歳)を逮捕した。八尾署の発表等によると、男は「2ちゃんねる」に今年1月22日午前1時半頃、「俺多分もうすぐやりますよ。死ぬかどうかはわからんけど 子どもを大量に殺しますよ 本当です 大阪八尾市です」と書き込んだ疑い。男は容疑を認めているという。
男が書き込んだその日のうちに掲示板を見た人から通報があり、大阪府警の把握するところとなった。大阪府警は同市の幼稚園や小中学校に対し、府の教育委員会児童生徒支援課を通して、「園児・児童・生徒の安全確保を願います」という警告を送っている。子どもの殺人予告ととれる書き込みがあれば、こうした対応をとらざるを得ず、八尾市の業務の遂行を威力を用いて妨害したとして「威力業務妨害」容疑が成立する。
■2月:上司の「殺人依頼」を書き込んだパートの女を逮捕
千葉県警行徳署は2月26日、ネット掲示板に上司の殺人依頼を書き込んだとして、脅迫容疑で、埼玉県三郷市のパートの女(36歳)を逮捕した。報道等によると、女は2月20日午後10時半ごろ、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「GREE」の掲示板に「殺人依頼」と題し、勤務先の上司である県内の団体職員の女性(24歳)の実名や携帯電話番号を記したうえで、「(女性の実名)を殺してください」と書き込んだ疑い。女は年下の上司に厳しく叱責され、「頭にきた」ために行ったと犯行を認めているという。女性は友人を通してこの書き込みを知り、同署に相談していた。
★掲示板の書き込みに注意:「本気じゃなかった」は通用しない
2008年の犯罪予告大量検挙時の事例が教えてくれることだが、殺人予告を本気で書く人は少ない。一時の感情に駆られて、あるいは悪ふざけ(ウケ狙い、いたずら)で書いてしまう人のほうがはるかに多い。しかし、いったんネットに書き込んでしまえば、本気か嘘か冗談かなどは一切関係なく、罪に問われる。掲示板に殺人予告を書けば、それだけで「偽計業務妨害」になる。八尾市の例のように実際に警察や教委が動けば、「威力業務妨害」になる。相手が特定されていれば「脅迫」になる。
注意や罰金程度で済むケースもあるが、2008年の大量検挙事例等では懲役1~2年の執行猶予付きになった例が多数ある。逮捕され実名報道されれば、それだけでダメージが大きく、失職するケースも稀ではない。くれぐれもその「一線」を超えないよう、掲示板の書き込みには十分に注意していただきたい。
(※注:検挙者数)
この検挙者数は「秋葉原通り魔事件」後に警察が検挙に動いた数字で、同事件以前の書き込みに対する検挙も含まれる。「インターネット・ホットラインセンター」が出している「殺害予告、爆破予告の通報受理件数」によれば、2008年6月は328件、同7月は130件。同年の他の月の通報件数の平均は38.6件で、6月が突出して多いことがわかる。
(2010/03/17 ネットセキュリティニュース)
【参考:刑法】
(脅迫)
第二百二十二条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(威力業務妨害)
第二百三十四条 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。