「いわば国産『セカンドライフ』で、米国のそれよりさらに優れたものです」という勧誘の言葉に夢を膨らませ、仮想空間の土地を購入したが、期待の「ワールド」はいつまで待っても稼働しない。--こうした苦情や相談が多数寄せられ、2009年9月に宮城県が、同年11月に消費者庁が、仮想空間「エクシングワールド」の運営会社であるビズインターナショナル(さいたま市大宮区、以下ビズ社)に業務停止命令を出した。また、消費者庁からの業務停止命令の期限となる今年5月27日には、同社と関連会社など16か所に対し強制捜査が行われた。
ビズ社が行っていたのは、いわゆるマルチ商法(連鎖販売取引)だ。同社は2007年6月から仮想空間「エクシングワールド」のサービス提供とDVD、IPフォン等がセットになったビジネスキットを39万8千円で販売。このキットを販売する代理店契約をして新たに契約者を勧誘すればボーナスを支払う、また仮想空間内で土地売買はじめさまざまなビジネスを行うことで収入が得られるとして、全国で会員勧誘を行っていた。同社が昨年10月までに会員約2万8000人から集めた金は約100億円にのぼるとみられ、損害賠償を求める集団訴訟も起きている。摘発までの経緯をまとめた。
■2009年9月2日:宮城県、ビズ社に業務停止命令
宮城県は2009年9月2日、ビズインターナショナルに対し、特定商取引法に基づき、翌3日から2010年1月2日までの4か月間、連鎖販売取引を停止するよう命じた。県によると、同社は冒頭に述べた通り、いわゆるマルチ商法を展開していた。勧誘に際しては同社の名前や目的を告げずに相手を呼び出し、「必ず儲かる」などと説明。渋る相手には長時間にわたり執拗に迫るなどした。2008年7~9月にかけて県内での同社に関する相談件数が急増したため、県は同年10月に行政指導を実施。その後も改善がみられなかったため、2009年4月に県消費生活条例に基づいて業者名を公表し、注意を呼びかけていた。2009年8月末までに県に寄せられた相談件数は133件にのぼる。
・特定商取引法違反の連鎖販売業者に対する業務停止命令について(宮城県)
http://www.pref.miyagi.jp/syoubun/syohi/enforce/miyagi_20090902.html
■2009年11月27日:消費者庁、ビズ社に業務停止命令
消費者庁は2009年11月27日、ビズインターナショナルに対し、特定商取引法に基づき、翌28日から2010年5月27日までの6か月間、新規勧誘や契約締結などの業務を停止するよう命じた。同庁によると、同社は上記の通りマルチ商法を展開しており、2007年6月から2009年5月まではビジネスキットを39万8千円で、2009年6月以降は「TRY/1(トライワン)」と称する携帯電話コンテンツサービスとDVD、マイクロSD等がセットになったビジネスキットを29万8000円で連鎖販売していた。
同社の勧誘者は、仮想空間のエクシングワールド内で不動産ビジネス等を行うことで「必ず儲かる」と言い、大手自動車メーカーや百貨店などの有名企業が参加すると偽り、また実際には高機能パソコンでなければ動作しないのに「Windows XPで動くパソコンなら動く」と虚偽の説明をしていた。被害は全国に及び、同年8月末までに国民生活センターに寄せられた相談は、46都道府県から約870件あったという。
・特定商取引法違反の連鎖販売取引事業者に対する業務停止命令(6か月)について~消費者庁長官による初めての特定商取引法に基づく行政処分~[PDF](消費者庁)
http://www.caa.go.jp/trade/pdf/091127kouhyou_1.pdf
■2010年5月27日:埼玉県警、ビズ社と関連会社を強制捜査
埼玉県警は消費者庁からの業務停止期限にあたる5月27日、ビズ社と関連会社など16か所に対し、特定商取引法違反(不実告知など)容疑で家宅捜索を行った。ビズ社の関連会社には、同社が仮想空間のシステム開発を委託したI.D.R(東京都港区、以下I社)、およびI社が開発を再委託したフレパー・ネットワークス(同、以下F社)があり、ビズ社は会員から集めた資金の大半はこの2社に支払ったと広報している。しかし、報道等によるとI社は実体のない会社で、資金の流れを不透明にするための偽装工作の可能性もあるという。県警は押収したパソコンや書類などを精査し、会員勧誘の実態や資金の流れの解明を進める。
・仮想空間の開発に関するお知らせ(ビズインターナショナル)
http://www.biz-int.jp/news20100510.html
今年4月、「実現する意思がない儲け話で投資させた」として、大阪府、京都府、広島県、兵庫県、千葉県に住む男女17人が損害賠償を求める集団訴訟を起こした。相手はビズ社、I社、F社の法人3社と、それぞれの代表取締役である。また、6月には広島県在住の十数人の会員が損害賠償を求めて広島地裁に提訴する方針という。全国に2万8000人といわれる会員に、訴訟が広がる可能性もある。いっぽう、会員の中には、いまだにエクシングワールドの「次の一手」を信じて疑わない人たちもいるという。
(ネットセキュリティニュース 2010/06/11)