「初心者でも必ず高収入が得られる」という言葉を信じて高額な初期費用を支払い、ネットショップを開いたはいいが、勧誘時の話とは違って商品は売れない。どうしたらいいか。--こうした相談が相次いでいるとして、東京都と国民生活センターが「ドロップシッピング」に対する注意喚起を行ったのは、昨年2月、11月のことだ。その後、東京都は同年12月、不適正な取引行為の疑いのあるドロップシッピング業者(以下DS業者)が立入調査を拒否したとして、2社の情報を公表した。
今年に入り、3月には東京都がDS業者2社に対し、4月には消費者庁が1社に対し、業務停止命令を出している。5月にはついに警察が動き、東京都台東区のDS業者に対し、特定商取引法違反容疑で家宅捜査が行われた。ドロップシッピング関連の摘発はこれが初めてとなり、ネットでは遅きに失したという声も聞かれる。大阪では悪質なDS業者に対し集団訴訟も起きている。摘発までの経緯をまとめた。
【ドロップシッピングとは】
英語で「直送」を意味し、通信販売形態の一種。個人が在庫を持たずにネットショップを開設し、一般消費者から注文を受けると、代理店契約をしているメーカーや卸売業者に注文情報を転送し、商品を直送させる。売主として商品の小売価格を決めて販売し、卸値と小売価格の差額分が利益となる。日本では2005年頃から見られるようになった。仲介業者が商品の仕入れや発送、決済システムなどの機能を提供し、ネットショップのホームページ作成も併せて請け負うことが多い。個人に対し甘い言葉で勧誘し、高額な契約金を支払わせる業者がいることから、トラブルが多発している。
■2009/02/05:被害相談の増加に東京都が注意呼び掛け
東京都は2009年2月5日、ドロップシッピングやアフィリエイトの被害相談が多くなっているとして、その相談事例を公表し、一般に注意を呼びかけた。相談事例としては、「家で出来る副業をネットで調べ、ホームページを開設してゲーム機、薄型テレビ、有名遊園地のチケット等を販売するため仲介業者と契約。3か月で元がとれると言われ、ホームページ開設等費用130万円を支払ったが、利益は1,500円のみで、業者と連絡が取れない」という30代男性の相談など、3例が紹介されている。都は、これらのビジネスは素人が短時間の作業で高収入が得られるほど簡単なものではなく、高額な初期費用を取り戻すのは至難の業だとアドバイスしている。
・ 緊急消費者被害情報 ネット広告等儲け話にご注意(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2009/02/20j25400.htm
■2009/11/04:相談急増に国民生活センターが注意呼びかけ
国民生活センターは2009年11月4日、アフィリエイトやドロップシッピングに関する相談が急増しているとして、苦情相談の現況をまとめ、注意喚起文書を公開した。アフィリエイトとドロップシッピングの相談件数は、2005年度~2009年度で1118件。2008年度(379件)は2007年度の約2倍となり、2009年度上期(356件)は2008年同期(100件)に比べ3.5倍に急増している。
相談事例としては、「業者の資料では商品卸値が商品価格比較サイトで見た最安値よりさらに安く、1か月の利益は最低60万円になるとあった。販売商品を決め、問合せや注文が来たら返信し、売れた商品の卸代金を業者に支払うくらいの仕事をすればよく、サポートも行うので必ず利益になると説明を受けた。約180万円を振り込んだが、販売できるとされていた商品が実際には販売できなかったり、商品の卸値も資料と異なって高く、業者からのサポートもなかった」という30代男性の相談などが紹介されている。
・アフィリエイトやドロップシッピングに関する相談が増加!-「簡単に儲かる!」? インターネットを利用した“手軽な副業”に要注意[PDF](国民生活センター)
http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20091104_3.pdf
■2009/12/03:東京都、立入調査を拒否した業者2社を公表
東京都は2009年12月3日、ドロップシッピングサービス契約の勧誘にあたり、不適正な取引行為(重要事項不告知、不実告知、優良有利誤認など)を行った疑いがある業者2社に対して立入調査を求めたが拒否されたとして、事業者名とこれまでの経過を公表した。ホームページの企画制作等を行うネット(東京都千代田区)、およびバイオインターナショナル(東京都豊島区)の2社で、両社にはそれまでに44件の被害相談が寄せられていた。
・不適正な取引行為の疑いのあるドロップシッピングサービス業者が都による立入調査を拒否したので事業者名を公表します(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2009/12/20jc3300.htm
■2010/03/01:東京都、悪質業者2社に業務停止命令
東京都は3月1日、前記の立入調査を拒否した2社に対し、特定商取引法に基づき9か月間の業務停止命令を出した。両社はホームページに「リスクゼロでネットショップを設立でき、月に数十万円を稼ぐことができるドロップシッピング」などと記載。連絡してきた人に、1日に1回15分程度、注文の受付、入金確認等の業務を行うだけで確実に利益が出るなどと告げて高額の契約を結ばせていた。しかし実際は、ほとんど売り上げがなく儲からない状態だった。
・誰でも簡単に高収入が得られると誘って高額な契約をさせる ドロップシッピングサービス事業者2社に全国で初めて業務停止命令(9か月)(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/03/20k31300.htm
■2010/04/09:消費者庁、ドロップシッピング業者に業務停止命令
消費者庁は4月9日、業務提供誘引販売業者であるウインド(東京都品川区)に対し、特定商取引法に基づき、6か月間の一部業務停止命令を出した。同社は、実在しない契約者の月別利益実績を表示するなど著しく事実に相違する表示をし、受注や問合せメールへの対応などの簡単な仕事をするだけで確実に高収入が得られるかのように勧誘。「2、3か月で元は取れる」などと宣伝し、これを信じた契約者に約20万円から100万円を超える代金を負担させていた。報道等によると今年1月までの約2年間に約600人から5億8千万円を集めたが、ほとんどの契約者は利益をあげることはできなかったという。同社に対しては、昨秋から大阪の被害者弁護団が集団訴訟を行っている。
・特定商取引法違反の業務提供誘引販売業者に対する取引停止命令(6か月)について[PDF](消費者庁)
http://www.caa.go.jp/trade/pdf/100409kouhyou.pdf
■2010/05/27:警視庁、東京都台東区のDS業者を家宅捜査
警視庁は5月27日、ホームページ制作会社のサイト(東京都台東区)を特定商取引法違反(不実の告知)容疑で家宅捜査した。報道等によると、同社は今年1月、問い合わせてきた川崎市の無職女性に、「簡単に稼げる」「2、3か月で元が取れる」などと虚偽の説明を行い、女性はホームページの開設費用など85万円を支払ってネットショップを開いた。しかし、約束していたサポートが受けられず注文は1件も入らなかったため、警視庁に被害届を出していた。国民生活センターや消費者庁には、同社に関し全国から100件以上の被害相談が寄せられていたという。同社は100人以上から1億円以上を集めていたとみられ、警視庁は押収した資料等から実態解明を進める。
悪質なDS業者はあの手この手を使い、簡単に・確実に高収入が得られると個人に信じ込ませて初期投資の資金を払わせ、その後は放置する。ドロップシッピングというビジネスを装ってはいるが、実態は初期投資目当ての詐欺と変わらないのではないか。昨年10月、上記のDS業者ウインド(東京都品川区)に対し集団訴訟が起こされ、今年3月9日には大阪地裁で第2回裁判が行われた。1月22日には、同じくDS業者のオフィス・ピー(本社:東京都千代田区)に対し高額な契約金の返還を求める集団訴訟が起きている。悪徳DS業者に対する被害者からの訴訟は今後、さらに広がる可能性がある。警察による実態解明にも期待したい。
(ネットセキュリティニュース 2010/06/11)