首都大学東京(東京都八王子市)は24日、不適切な内容の映像を作成して動画サイトで公開し、人権侵害を指摘されていたシステムデザイン学部4年の男子学生2名に対し、退学処分としたことを明らかにした。映像に音楽を付した同大学院博士前期課程の学生については、積極的に関与したわけではないとの判断から1か月の停学処分としている。
不適切な内容の映像とは、学生たちが「ドブスを守る会」と称し、街頭で女性に声をかけて無断撮影した動画だ。学生の一人が路上で一面識もない女性に突然「写真を撮らせてください」と声をかけ、困惑して拒否する女性に対し「ドブス写真集を作りたい」などと執拗につきまとい、女性が戸惑う一連の様子を、もう一人の学生がビデオカメラで撮影している。
大学院在籍中の別の学生が音楽を付け、自分たちの氏名を記載したこの映像を、彼らは「ドブス写真集を作るその過程」と題して、14日にYouTubeに投稿した。
■ネットで沸き起こった非難と大学の対処
女性をいたぶるような不快な内容であり、しかも顔がわかる状態で公開していたため、この動画を見たネットユーザーからは「人権侵害ではないか」という批判や非難の声があがり、巨大掲示板や個人ブログなどにも飛び火して、いわゆる炎上状態となった。
17日以降は全国紙やテレビニュースばかりか海外メディアなどでも報道され、同大学にも多数の苦情が寄せられたという。事態を重くみた大学側は18日、ホームページ上で学長名によるお詫びのコメントを発表し、当該学生に事実を確認して厳正に対処するとしていた。
大学の調査などによれば、当該学生たちはこの映像を「作品」としているという。しかし、同大学は「作成目的・意図の如何を問わず、その内容が、社会通念に照らして、倫理観、人権意識を著しく欠く、極めて悪質なもの」として今回の処分を決定した。また、当該学生の指導教員に対しては調査継続中であり、今後、厳正に対処するとしている。
■なお続くネットでの追及~「正義の御旗」に行き過ぎのおそれも
大学側としては、指導教員への対処という問題を残しつつも学生たちに厳正処分を行うことで、一定のけじめはつけたと考えているだろう。しかし、ネット社会ではこのような事件の幕はそう簡単に降りてくれない。
投稿された動画自体はすでに削除されているが、女性の顔にモザイク加工をして学生だけが鮮明に見えるコピーが広く出回っている。また、当該学生のプロフィールや住所などの個人情報もあらわになっている状態だ。また、「まだ足りない」「次は法の制裁」などと当該学生にさらなる厳罰を求める書き込みも少なくない。
無辜の他人を巻き込んだり傷つけるような愚作でも、仲間内だけなら共有できたり許容できたのかもしれない。だが、撮影された女性は、撮影時に抱いたであろう不快感や見知らぬ男につきまとわれる恐怖感などのほかに、顔がわかる状態で動画を公開されたことで、二重の被害にあったといえる。
学生たちの行為は愚行というよりは悪行に近い。だからこそ多くのネットユーザーに怒りの火をつけたのだろう。しかし、詳細な個人情報をさらすなど、過ちを犯した者を追いつめ、執拗に制裁を加えようとするのはいかがなものか。行き過ぎると、正義の御旗を振っていたはずが、いつの間にか自身が法に触れているおそれもある。
ネット利用におけるセキュリティとは、ウイルス対策だけではない。ネット利用の際には、加害者に転じない倫理感をもつことが大切であることを、この事件は言外に伝えているようだ。
(2010/06/25 ネットセキュリティニュース)
■首都大学東京のリリース
・学生による動画サイトへの不適切な掲載について(お詫び)
http://www.tmu.ac.jp/news/topics/4622.html
・本学学生の懲戒処分について[PDF]
http://www.tmu.ac.jp/assets/files/press/press_100624.pdf