実在する企業やサービスを装ったメールやSMSで偽のWebサイトに誘導し、アカウント情報やクレジットカード情報などをだまし取ろうとするフィッシングが、10月も繰り返し行われた。執拗な攻撃を繰り返していたグループが活動を再開するも、以前のような勢いはなく、10月は今年最も穏やかな月となった。
フィッシング対策協議会の10月の月次報告にも、同様の傾向が表れている。それによると、協議会に寄せられたフィッシング報告件数 (海外含む) は126件(前月比291件減)。ユニークなURL件数は236件(前月比348件減)、悪用されたブランド件数 (海外含む) は15件(前月比10件減)だったという。いずれも、いずれも今年に入ってから最低の件数だ。報告件数減少の大きな原因として、金融機関をかたるフィッシングとオンラインゲームをかたるフィッシングの減少をあげている。
■活発なフィッシンググループに変化~オンラインゲームはまた終息
海外でフィッシングを行っていた特定のグループが、2013年に日本人を標的にするようになった。以後、さまざまなブランドを装うオンラインゲームとオンラインバンキングのフィッシングが、これまでにない勢いで展開されるようになる。彼らの攻撃は、長期間に渡り連日繰り返す、大量のメールをばらまく、大量のホストやドメイン名、中継サイトを投入するなど、大規模かつ活発な活動が特徴だ。国内ユーザーを狙うフィッシングはそれほど多くはないため、彼らの活動状況は国内のフィッシング事情に色濃く反映されることとなる。
このグループが仕掛けるオンラインバンキングのフィッシングは、8月末の攻撃を最後に途絶えており、10月も観測されなかった。9月後半に再開したオンラインゲームのフィッシングは、10月に入ってからもスクウェア・エニックスを装うものがしばらく続いたが、頻度や投入するドメインは、以前の2~3分の1に減少している。飽きられて話題にならなくなったのか、フィッシングメールが減ったのかは定かではないが、ネット上での報告も以前ほど多くはない。
■LINEを装うフィッシング
このグループは、7月に新たなターゲットとして、ライフカードのプリペイドカード「Vプリカ」の会員を狙ったフィッシングを始めた。このフィッシングは、8~9月も続いたが頻度は少なく、10月は完全休止だった。8月には、りそな銀行、福岡銀行、ジャパンネット銀行、京都銀行、静岡銀行のフィッシングを新たに仕掛けるも、長くは続いていない。そんな中、彼らの仕業とみられる、LINEを装うフィッシングメールが、10月下旬にばらまかれた。今のところは、これも後が続かず単発で終わっている。
「LINEーー安全確認」という件名で届くこのメールは、「システムはお客様のアカウントが異常ログインされたことを感知しました」という文面でアカウントを検証するよう促し、記載したリンクをクリックさせようとする。メールは、HTML形式になっており、見た目のリンク先は公式サイトの「line.me」ドメインだが、実際には全く関係のない「nuii.pw 」ドメインの偽サイトへと誘導される。本物のログインページを真似、URLの先頭に「line.me.login」を付けて本物っぽく見せかけようとしているが、本物と違いHTTPS接続ではないので、錠前マークが表示されない。これを見逃さなければ、すぐに偽サイトだとわかる。
公式サイトのヘルプページ「迷惑トーク・メール」の「LINEを騙った連絡が届いた」には、同社から送信しているメールのドメイン一覧が掲載されている。送信者のメールアドレスは偽装できる項目なので、本物の判定には使えない。ただし、今回のフィッシングメールは、送信元の表示名は【LINE】に偽装しているものの、メールアドレスは偽装していないため、メールアドレスのドメイン名から偽メールだということがわかる。本物を識別するのは難しくても、偽物をふるい落とすのは比較的簡単なので、ありえないことを察知して偽物に気づいていただきたい。同社は、LINEでは不正なログインを確認するためにメールを送ることはないとしている。
■スマホユーザーを狙うアマゾンのフィッシング続く
フィッシング対策協議会の月次レポートでは、このLINEのフィッシングにまつわり、「フィッシングサイトでスマホでの利用者をターゲットとしたページ構成となっており、今後も同様にスマホ等のユーザーを狙った攻撃が発生する可能性がある」としている。ところが今回のLINEの偽サイトは、スマートフォンでアクセスしても本物のようにスマホ用のページにはならず、PC用のページが表示されるだけだった。同協議会の緊急情報に掲載された偽サイトの画像は、一見スマホ用のログインページに見えるのだが、PC用の偽サイトの画面の一部と完全一致するので、一部を切り取ったものではないかと思われる。
LINEのフィッシングについては、スマホユーザーを狙った攻撃とはいえないが、スマホユーザーを意識したフィッシングは、昨年あたりから増えつつある。10月に行われたものでは、「第三者による不正アクセスを検知したため、パスワードを見直し、お支払方法の再登録をお願いします」というSMSで誘導するアマゾンのフィッシングがそれだ。このフィッシングは、アマゾンの偽のトップページからログインさせ、クレジットカード情報などをだまし取ろうとするもの。偽サイトには、PC用のページとスマホ用のページが用意されており、端末に応じて振り分けるようになっている。10月は観測されなかったが、過去にはSMSやメールで誘導するオンラインバンキングのフィッシングで、PC用とスマホ用のページを用意したものが多数見つかっている。
10月に観測されたグーグルのフィッシングも、SMSで誘導するタイプだ。「GoogleよりGoogle playアカウントのお支払方法登録のお願いです」というSMSで誘導し、ログイン情報やクレジットカード情報などをだまし取るフィッシングだが、SMSで誘導するにも関わらず、偽サイトはスマホ用のデザインになっていない。いまひとつ詰めが甘いが、断続的に毎月数回来ているので注意したい。
■大学のメールアカウントを狙うフィッシング
どこかで毎月必ず発生しているのが、メールアカウントを狙うフィッシングだ。大学やプロバイダのメールアカウントが乗っ取られると、迷惑メールの送信所にされてしまうのが常で、その結果ブラックリストに登録され、まともなメールまで不達になってしまうという悲劇を招くことがある。メールアカウントが他のサービスと共通のアカウントになっている場合には、さらなる悲劇も待っている。
関西学院大学の職員がフィッシングでIDとパスワードを盗まれ、学生や卒業生ら1466人分の個人情報が漏えいしたというニュースが10月に流れた。最近の大学や企業には、マイクロソフトやグーグルのクラウドサービスを利用するところも多い。こうしたサービスは、「シングルサインオン」などといって、一度のユーザー認証でいろいろなサービスが利用でき便利なのだが、肝心なそのアカウントを盗まれると、すべてのサービスが被害を受けることになる。同学の場合も、システムにOffice 365を利用しており、メールアカウントを盗まれた結果、クラウドストレージに保存されていたファイルにアクセスされてしまったものとみられる。
ローカルとクラウドをシームレスに使え、ひとつのアカウントでさまざまなサービスが利用できるのは確かに便利だが、それだけに、アカウントを確実に守るよう努めなければいけない。「HTTPSで接続し、錠前マークとURLが正しい、またはサーバ証明書の運営者が正しいことが確認できたサイト以外では、ログインしてはいけない」ことを、しっかり脳裏に刻み付け、常に気をつけるようにしていただきたい。
(2016/11/04 ネットセキュリティニュース)
【関連URL】
・2016/10 フィッシング報告状況(フィッシング対策協議会)
http://www.antiphishing.jp/report/monthly/201610.html
【告知】
[2016/10/03]〔注意喚起〕名古屋大学附属図書館を装ったフィッシングメールについて(名古屋大学)
http://lws.nul.nagoya-u.ac.jp/news/centrallib/2016/161003-4
[2016/10/04]【注意喚起】中央大学を装ったフィッシング詐欺メールについて
http://www.chuo-u.ac.jp/aboutus/informational/itcenter/it_kourakuen/news/2016/10/47683/
[2016/10/07]フィッシングサイトへのアクセスによる個人情報漏えいについて(関西学院大学)
http://www.kwansei.ac.jp/notice/2016/notice_20161007_013525.html
[2016/10/07]本学図書館員を装ったフィッシング詐欺メールが送付されています(筑波大学)
http://www.tsukuba.ac.jp/news/l20161007.html
[2016/10/10]メール管理者を騙った詐欺メールに関する注意(電気通信大学)
https://www.cc.uec.ac.jp/blogs/news/2016/10/20161010phising.html
[2016/10/11]メール管理者を騙った詐欺メールに関する注意(電気通信大学)
https://www.cc.uec.ac.jp/blogs/news/2016/10/20161011phising.html
[2016/10/31]LINE をかたるフィッシング(フィッシング対策協議会)
https://www.antiphishing.jp/news/alert/line_20161031.html
[2016/11/--]LINEを騙った連絡が届いた(LINE)
https://help.line.me/line/?contentId=20000293