インターネット時代の一般市民の言論を守ることを目的とした「日本ペンネット」が産声を上げ、5月22日、都内で旗揚げイベントが開催された。発足の契機となったのは、「橋爪事件(平和神軍観察会事件)」の有罪判決だった。
「橋爪事件」とは、右翼系組織「平和神軍」とその関連企業の関係を告発するサイトを運営する東京都の会社員・橋爪研吾氏が、当該企業から名誉棄損で告訴され、一審では無罪となったものの、二審で有罪判決、最高裁で有罪が確定した事件。この最高裁判決について、マスコミはネットの無責任発言に歯止めをかけるものと肯定的に報じたが、ネットでは一般ユーザーの公益目的の発言を封じるものではないかという批判が出ていた。
日本ペンネットの顧問に就任した紀藤正樹弁護士は、橋爪氏の主任弁護士としてこの事件にかかわり、「市民の表現の自由が壊滅的打撃を受ける」という強い危機感を持ったという。同じようにこの問題に危機感をつのらせたブロガーや一般市民、ジャーナリストらが集まり、「橋爪事件のような事件をなくす」「表現の自由を守る」という目的で一致。先月29日に「日本ペンネット(英語名 THE JAPAN PEN NET or PEN NET JAPAN 略称 JPN or PENN )」が結成された。代表にはフリーライターの藤倉善郎氏が就任している。
5月22日に開催された旗揚げイベントは3部構成で、1部は橋爪研吾氏が司会者の質問に応える形で裁判の経緯について語った。勤め人である氏が仕事や私生活を犠牲にして裁判に取り組んでいったプロセスが、生々しく語られた。2部では、悪徳商法の情報サイト「悪徳商法?マニアックス」運営者のBeyond氏、蛇口産業(水ビジネス)のニセ科学を検証する「水商売ウォッチング」運営者の天羽優子氏が、それぞれ受けて立った裁判を詳細にレポートした。1部、2部とも、山口貴士弁護士が法律的解説を行っている。
3部では主催者側が日本ペンネット設立の経緯について語った。紀藤弁護士は「ペンネット」のネットはインターネットの意味ではなくネットワークの意味であると指摘。守るべき対象はインターネット上の表現に限定するものではなく、一般市民の表現、言論の自由を広く対象とする。国家に対して個人の表現の自由を守ることは命がけの行為であり、一人の戦いにしてはいけない。人々のネットワークで守っていかなくてはならないとした。
今後の活動については、橋爪事件を記録として残すための書籍化、Webサイトの構築などが検討されているという。
(2010/05/26 ネットセキュリティニュース)
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