情報処理推進機構セキュリティセンター(IPA/ISEC)は3日、8月のコンピュータウイルス、不正アクセスに関する届出状況のまとめを発表した。「今月の呼びかけ」では、ブラウザを乗っ取る「ブラウザ・ハイジャッカー」の相談が多く寄せられているとして、注意を呼びかけている。
■コンピュータウイルス、不正アクセスの届出状況
8月のウイルスの検出数は7万6103個で、7月の8万31個から4.9%の減少となった。届け出件数は1222件で、7月の1256件から2.7%の減少。うち、パソコンに感染があった件数は8件だった。検出数の上位は、W32/Netsky(66403個)、W32/Mydoom(3604個)、W32/Mytob (2431個)。
不正アクセスの届け出件数は20件であり、そのうち被害のあったものは12件。被害内容は「侵入」5件、「なりすまし」5件、「その他」2件。「侵入」による被害は、Webサーバ内のクレジットカード情報などを盗まれたものが1件、Webページの改ざんが3件、不正プログラムを置かれていたものが1件だった。「なりすまし」の被害では、本人になりすましてログインされ、サービスを勝手に利用されていたものが、オンラインゲームで4件、他サービス1件あった。
8月の相談総件数は1792件で、4月の1668件から124件増加。相談内容では「ワンクリック不正請求」関連が654件(7月は657件)、「セキュリティ対策ソフトの押し売り」関連が1件(7月は6件)、Winny関連が3件(7月は6件)、「情報詐取を目的として特定の組織に送られる不審なメール」に関する相談が2件(7月は1件)あった。
■ブラウザを乗っ取る「ブラウザ・ハイジャッカー」に注意
パソコンの起動時やWebの閲覧時に、身に覚えのないゲームサイトやアダルトサイトのウィンドウが開くという相談が、IPAに多く寄せられているという。「今月の呼びかけ」では、このブラウザ・ハイジャッカーをとりあげ、感染例などを紹介している。
ブラウザの設定を書き換えたり制御を乗っ取ってしまうことを「ブラウザ・ハイジャック」といい、そのような悪質なプログラムのことを「ブラウザ・ハイジャッカー」と呼んでいる。IPAによれば、ブラウザ・ハイジャッカーに感染すると、インストールしたつもりのないツールバーが追加される▽ブラウザ起動時の初期ページが変更される▽広告や身に覚えの無いサイトが勝手に開く(ポップアップする)▽サイトの閲覧中に有害サイトに誘導される、などの症状が現れるという。さらにこれら症状に加え、Webページの閲覧履歴や、ブラウザ上で入力したIDやパスワードなどを盗み出すスパイウェアとして活動するものもあるとし、動画サイトで日本のアニメを観ようとして、ブラウザ・ハイジャッカーに感染させられてしまう具体例を紹介している。
事例では、検索サイトでアニメ関連のキーワードで検索し、上位に現れた「無料動画」などと書かれた日本語のサイトのリンクをクリック。リンク先のページで、そこあった動画プレーヤーの再生ボタンのような表示をクリックすると、大きな動画再生ウィンドウのようなものが開いた。
IPAによると、これがユーザーをだますために動画再生画面を装った罠の画面で、どの場所をクリックしても「ブラウザ・ハイジャッカー」のダウンロードが始まるという。画面の中央には再生ボタンのような表示もあるが、これをクリックしても動画は再生されず、代わりに、Windowsのファイルのダウンロードの「セキュリティの警告」が表示。警告を無視して「実行」ボタンを押すと、発行元が確認できないが本当に実行するかどうか、再び「セキュリティの警告」が表示。「実行する」をクリックすると、「ブラウザ・ハイジャッカー」に感染し、ブラウザに見覚えのないツールバーが追加。ブラウザ起動時に表示されるページが変更され、ブラウザの使用中にはゲームサイトや広告のウィンドウが次々と勝手に開くようになってしまったという。
IPAは、検索結果の上位に表示されたサイトは安全という思い込みがあると指摘。リンク先の安全性は見た目では判断しにくく分からないので、十分に信頼できると判断したWebサイトでない限り、「セキュリティの警告」が表示されたら「キャンセル」ボタンで中止し、そこから先へ進むべきではないと注意を促している。
■編集部からの補足
IPAが「ブラウザ・ハイジャッカー」の例としてとりあげているのは、「Adware.DoubleD」などの名前で検出されるアドウェアのひとつ。Internet ExploreやFirefoxにツールバーを追加するもので、「DesktopSmiley Toolbar」「GamingHarbor Toolbar」「JuicyAccess Toolbar」「nScreensavers Toolbar」「pcWallpaperZone Toolbar」「PopularGlitter Toolbar」といった様々な名称で無償配布されている。GoogleやYahoo!が配布しているツールバーと基本的には同じ、ブラウザの機能を拡張するソフトウェアだ。
配布元はDoubleD Advertising Limitedと名乗っており、広告の表示を目的に配布しているソフトウェアなのだが、ユーザーにそれを十分理解できるように説明せずに、ユーザーの錯誤を狙うたかのような手法でインストールさせようとするところには大きな問題がある。拡張される機能の有用性や、ソフトウェアの振る舞いに悪意を感じるかどうかについて個人差があり、編集部では十分な調査を行っていないこともあるため、このソフトウェアをブラウザを乗っ取るウイルスと断言するのは控えるが、かなり迷惑なソフトウェアであることは違いない。
なお、IPAが動画再生画面を装った罠の画面としているページには、実は、クリックすると同社のエンドユーザーライセンス契約とプライバシーポリシー(どちらも日本語で閲覧可能)に同意し、GamingHarbor Toolbaのインストールなどを許諾したと見なすといったよくある文面と、ソフトウェアの概要について英文で書かれている。しかし、これを読んだ誰もが、これから起こることを理解できるとは思えないし、動画再生と思い込んで開いてしまった人でなくても見落としてしまいそうな小さな文字で書かれていたりする。
・コンピュータウイルス・不正アクセスの届出状況[8月分]について(IPA)
http://www.ipa.go.jp/security/txt/2009/09outline.html
(2009/09/04 ネットセキュリティニュース)