2月は国内の一般サイトが悪用されるケースが多く見られ、観測されたフィッシングサイトは前月に続く50件越えとなった。オンラインバンキングのアカウントを狙った攻撃は見られなかったが、クレジットカード情報やプロバイダのメールアカウントを狙った攻撃が、相変わらず続いている。
編集部では、飛来するメールやWeb上の情報を元に、日本国内に関係するフィッシングサイト(国内IP、JPドメイン、国内ブランド、日本語サイト)について観測を行っている。2月に観測した、国内関連のフィッシングサイトは、前月から6件増え56件だった。うち、偽サイト本体が設置されていたものは36件、他所に設置した偽サイトにリダイレクトする中継サイトとして使われたものは18件だった。
悪用されたサーバーは、不正アクセスを受けた一般のWebサイトと見られるものが、前月の40件から44件に増加。うち国内サーバーは、前月の29件から36件へと増加した。ホスティングサービスの悪用は8件(すべて国内)、ウイルスに感染したユーザーのパソコンや自宅サーバーと見られるものは3件(同)、短縮URLサービスの悪用は1件(同)だった。
悪用されたブランドは、PayPal(13件)、三菱東京UFJ銀行(6件)、AOL(3件)ほか、計29種類と、前月の19種類から大幅に増えている。国内ブランドや国内のユーザーを狙ったものは、三菱東京UFJ銀行をかたるクレジットカード情報の詐取が、前月に引き続き出現。偽サイトを大量に使用する、MasterCardのフィッシングも観測された。
これらを含め各所からは、フィッシングに関する以下のような注意喚起(更新情報を含む)が出されている。クレジットカード情報やプロバイダのメールアカウントを狙ったフィッシングが、相変わらず続いている。
・[02/04]クレジットカード情報を盗み取ろうとする不審な電子メールにご注意ください(三菱東京UFJ銀行)
http://www.bk.mufg.jp/info/phishing/20130204.html
・[02/04]当行を騙った詐欺メール(フィッシング詐欺)にご注意ください[PDF](東日本銀行)
http://www.higashi-nipponbank.co.jp/osirase/osirase20130204.pdf
・[02/09]本日(2/9)、MasterCardをかたるフィッシングの報告を多数いただいております(フィッシング協議会:twitte)
https://twitter.com/antiphishing_jp/status/300171986548715520
・[02/14]MasterCardをかたるフィッシング(フィッシング対策協議会)
https://www.antiphishing.jp/news/alert/mastercard20130214.html
・[02/15]eoWEBメールをかたる不正なフィッシングサイトにご注意ください(ケイ・オプティコム)
http://support.eonet.jp/news/31/
・[02/15]eoWEBメールをかたるフィッシング(フィッシング対策協議会)
http://www.antiphishing.jp/news/alert/eoweb2013215.html
・[02/20]ODNメールや実在の企業をかたるメールにご注意ください(ソフトバンクテレコム)
http://www.odn.ne.jp/odn_info/20130220.html
・[02/20]ODNをかたるフィッシング(フィッシング対策協議会)
https://www.antiphishing.jp/news/alert/odn20130220.html
■海外のフィッシングに悪用される国内の一般サイト
国内の一般サイトが不正アクセスを受け、海外の偽サイトやその中継サイト(リダイレクター)に悪用されるケースが後を絶たない。昨年11月には12件、12月には15件と、一時減少したものの、1月には28件、2月には36件と再び増加に転じている。中でも特に目立つのが、たびたび悪用されてしまうケースだ。
集計では、同じサイト内に同時に設置された同じブランドの偽サイトやリダイレクターは、まとめて1件として扱っている。リダイレクターのリダイレクト先が途中で変更されてもカウントしないが、偽サイトやリダイレクターが削除後に再設置された場合や、新たに設置された場合には、その都度1件とカウントしている。
2月の36件の内訳は、3回設置と2回設置が各4サイトずつ、1回設置が16サイトで、悪用されたサイトの実数は、24サイトとなる。不正アクセスを受けた3割のサイトが、設置された偽サイトやリダイレクターの半分以上(20件:約56%)を占めているのだ。
ちなみに過去1年間の事例で見ると、悪用された一般サイトは88。うち複数回設置されたサイトが27(約31%)あり、この27サイトが、設置された偽サイトやリダイレクター150件のうちの89件(約59%)を占める結果となっている。
一般のWebサイトがフィッシングに悪用されるケースには、サイトの管理アカウントが破られ侵入されている場合もあれば、システムの脆弱性が突かれる場合もある。いずれにせよ、設置されてしまった原因を突き止め、適切に対処しておけば、同じ手口での悪用を防ぐことができる。ところが残念なことに、約3割のサイトが問題を解決しないまま運用を続けたため、再び悪用されるという結果を招いてしまっている。
サイトのオーナーの方は、仕掛けを削除するだけで終わりにせず、ウイルス感染などで管理アカウントが漏えいしていないか、ブログなどのCMS(Content Management System)やサーバーの管理ツールなどに脆弱性はないかといったことを必ずチェックし、根本的な問題の解決に努めていただきたい。
使用していないにも関わらず、ブログシステムやデータベース、ショッピングカートなどが動いているケースもしばしば見かける。使用していないと、ソフトの更新も滞ってしまいがちなので、サイトで何が動いているのかを確認し、不要なものは停止やアンインストールを検討していただきたい。
■URLに固有のIDを付けたフィッシング
2月に出された注意喚起のうち、東日本銀行のものは、ポイント制出会い系サイトのものである。悪質な業者は、さまざまな手口でキャンペーンを行っており、金融機関や通販などのオンラインサービス、デリバリーサービス、コンビニ、宅配業者など、実在する(あるいは紛らわしい)サービスや企業をかたるものも多い。
国内では、こうした業者の迷惑メールが非常に多く、その中には、メールの送信先のアドレスが分かるような仕掛けを施したものもある。メールソフトのセキュリティが向上したため、メールを開いただけでということはなくなったが、うっかりリンクをクリックしてしまうと、どのメールアドレス宛てに送ったメールがクリックされたのかを、相手に知られてしまうのだ。その結果、そのメールアドレス宛てに、これまで以上に大量の迷惑メールが届くことになる。効果的な相手とみなされ、詐欺などに巻き込まれるおそれもある。うかつにリンクをクリックしないよう、くれぐれも注意していただきたい。
送付先を特定するこの手のメールでは、相手に固有のIDを渡すやり方がよく使われる。このIDは、それを使って誘導先のサイトにログインさせようとするものもあるが、URLのパラメータに埋め込まれていることが多い(メールアドレスそのものや暗号化したものが埋め込まれていることもある)。
フィッシングでも、この手の手法が用いられることがある。出会い系サイトと同様、有効なメールアドレスや釣りやすい相手を特定しているのかも知れないが、その一方で、サイトに来ては困る人達を排除する目的でも使われている。具体的な手法のひとつとして、EMCの事業部「RSA」が「Bouncer List Phishing」と呼んでいるものが、下記のリリースで紹介されている。有効なID付きのURLでないとアクセスできない点は、国内の出会い系サイトが使う手法と同様だ。
・2012年の統計情報レビューと、新手のフィッシング攻撃方法「Bouncer List Phishing」[PDF](RSA)
http://www.rsa.com/japan/pdf/solutions/AFCC_news/AFCCNews_130129.pdf
■意外なところに埋め込まれたID
国内のユーザーを狙ったフィッシングでは、長期間続いているMasterCardを装うフィッシングで、2年半ほど前から固有のIDを付けたURLが用いられている。最初は、URLのパラメータに生のメールアドレスが入っていたが、その後はメールアドレスを暗号化したものに変更。これが、一昨年の12月まで続いていた。国内の出会い系サイトやRSAの事例とは違い、偽サイトはIDの有無に関係なくアクセス可能だった。
このMasterCardのフィッシングは、昨年1月から手法が若干変わり、偽サイトへのアクセスに、ランダムなサブドメインを使うようになった。うかつにも筆者は、このサブドメイン名が新たなIDになっていたことにしばらく気がつかず、URLをそのまま使用し、一般公開しているフィッシングサイトのデータベースにも、そのまま投稿していた。ほどなく、フィッシングメールの収集用に用意していたメールアドレスや、情報収集に使っていたサイトにフィッシングメールが来なくなり、毎回十数サイト確認できていた偽サイトは、ほとんど見つけられなくなってしまった。セキュリティソフトなどが、怪しいメールやサイトを排除するように、フィッシャーも都合の悪い相手の排除に努めているのだ。
ちなみに、フィッシャーが使う排除リストに、アクセス回線のIPアドレスが登録されてしまうこともある。登録済みのIPアドレスからのアクセスに対しては、偽サイトがエラーを返したり、正規サイトやGoogle、セキュリティベンダーのサイトなどにリダイレクトしたりするなどしてアクセスを阻み、偽サイトを確認させないようにするのだ。
2月は、フィッシング対策協議会が緊急情報として、このMasterCardのフィッシングを取り上げている。パラメータ方式からサブドメイン方式に代わってから初めての掲載だ。同協会の告知では、URLのパラメータやメール記載のIDなどの送信先が特定されそうな情報は掲載する実例から消すのが常なのだが、今回はこのサブドメインを露出した状態でURLが掲載されている。今もこれがIDとして使われているのかどうかは分からないが、メールの送り先が特定される可能性がある。
出会い系サイトやフィッシングに限らず、URLに意味のない文字列や数字が含まれている場合には、特定の相手にあてた専用のURLかもしれないので、取り扱いに注意したい。URLを公開したり通報したりした結果、迷惑なメールが来なくなればまだよいが、出会い系サイトにありがちな、アクセスすると迷惑メールが増えてしまうケースもある。ショッピングサイトの商品を紹介するつもりで掲載したURLが、あなた以外にはアクセスできないものだったり、時間がたつとアクセスできなくなってしまったりすることもある。時には、クリックした訪問者がそのショッピングサイトにあなたのアカウントでログインしてしまうこともありえるのだ。
(2013/03/15 ネットセキュリティニュース)